先生≠彼【完】
♯9
小指にちっちゃいハートが光ってる。ベッドに寝そべって、手をあちこちかざしてたら、ぷっと七海に笑われた。
「いつまで見てんの?」
「だ〜って」
嬉しいんだもん。喜びに浸っていたいんだもん。けいちゃんがくれた初めてのプレゼント。もちろんさっき、けいちゃんとの間にあったことは、七海には報告済。今日が七海とふたりきりの部屋で良かった。まさか、けいちゃんがそこまで計算してたとは思わないけど。
七海は「やるなあ、けいちゃん」と、感心してから、あたしと一緒に喜んでくれた。
「ピンキーリングってとこが、またいいよね。薬指のエンゲージは『千帆のハタチの誕生日に…』とか言われなかった?」
「言われない言われない」
七海がからかうのを否定しながら、ちょっとだけそんな舞い上がった想像が脳裏に浮かんだ。
え、けいちゃんと? そんな、やだ、どうしよう。あ、あたし、一生好き、とか言っちゃった。重たい女、とか思われたかな。
その時、コンコン、と部屋のドアがノックされた。
頬を軽く叩いて、顔を引き締めてから、あたしは扉を開ける。沖本さんが立っていた。
濡れそぼった髪に肩に掛けられたタオル。…お風呂上がりみたい。いつもは軽くメイクしてるんだ…ってのがわかるくらい、眉も目も素のままの沖本さんだった。
「えっと…」
「次、4組でしょ? 入浴の順番。どうぞ、って知らせに来たの。他の人にも教えてくれる?」
事務的に沖本さんは言う。個人的な用じゃなくてよかった。やっぱり彼女には苦手意識が付きまとってしまう。
「あ、ハイ…ありがとう」
ぎこちなく耳の後ろを掻きながら返事をした。沖本さんの目が、あたしの身体のある一点でぴたりと止まった。
「春日さん…」
「え?」
「そんなのしていいの?」
彼女はあたしの耳の後ろの手を指さす。やばい、リングしたままだ、ってことに気がついて、慌てて後ろに隠した。
「ごめんなさい。な、内緒にしてくれる…?」
「テストは追試だし、男の子と部屋で騒いでて謹慎と反省文だし。意外と春日さんて、問題児だよね。遠藤先生、可哀想」
問題児、かあ。客観的に見れば確かに彼女の言うとおり、あたしって遠藤先生にとっては、厄介な生徒なのかな。あたしは黙って小指のリングを外す。
丁度同じ頃、けいちゃんと酒井くんがあたしのことで火花を散らしてたことも、あたしは知らなかった。
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