先生≠彼【完】
#7
SIDE Keishi
俺が言った通りに、千帆は目を閉じて、ピンと背筋を伸ばした。素直な態度に、自然に笑みがこぼれてしまう。
千帆の前に立って、彼女の手を取る。微かに震える指に、唇を落として、買ってあったプレゼントを取り出した。
つやつやしたピンクゴールドの指輪は、千帆の指にぴったりと嵌った。
記憶力には自信がある。ただし、興味の対象だけだけど。学校に提出された千帆のパーソナルデータ覚えるくらいは朝飯前。我ながら危ないと思うけど、頭に入っちゃうものはしょうがない。
そうして得た情報のひとつが千帆の誕生日だった。
誕生日が近づいても、千帆は俺に何も言わない。多分、遠慮してるんだろう、とは思った。旅行中で、俺は引率の先生で、それどころじゃない、と。
千帆の気遣いは嬉しいけど、同時に安く見積もられたもんだ、と軽く苛立ちも覚えた。
だから勝手にサプライズでプレゼントを用意した。千帆に似合いそうな、可愛らしいピンキーリング。
幸せは右から入って左に移動するとか。だから、左手のピンキーリングは今の幸せが逃げないように…そういう意味があるらしい。誰に聞いたか忘れちゃったけど。
女々しい願いを千帆の細い指にはめ込んだ。
お仕置き、って言われてたのに、全く違う事態に千帆は戸惑って、そして指輪を見て、目をキラキラさせた。
「もうけいちゃん大好き。絶対一生好きっ」
千帆はそう言って、俺にしがみついてくる。
18かあ、やっと18…。『一生好き』なんて、その言葉の重さも、時の長さも知らないくせに。
時に子供っぽくて、時に大人びた表情を見せる。くるくると、そして一瞬たりとも同じ絵を見せない万華鏡みたいに、変化する千帆。ここまでおいで、って手を取って引っ張ってやりたいのに、何処かで、追いぬかれて、いつか置き去りにされるんじゃないか…時にそんな不安が、流れ星みたいに胸を一瞬掠めては消える。
もう、手放す気なんてさらさらないし。千帆に追いぬかれそうなら、俺も成長すればいい。それだけのこと。
先に部屋に戻れ、と千帆に促して、俺はもう一度空を見た。
千帆を見送ってしばらくしてから、非常階段を降りた。点呼の見回りまではまだある。自販機で何か買って部屋に戻ろう。
自販機の前で俺はしばらく悩んでた。缶コーヒーは好きじゃない。と言って、タリーズもスタバもない。完全カフェインの禁断症状だ。朝、朝食と一緒に出てくる出がらしのドリップコーヒーだけじゃ、全然足りねえ。
「遠藤ちゃん、まだ〜?」
焦れたように声を掛けられて、慌ててどいた。俺を押しのけて、自販機の前に立った奴の姿に舌打ちしそうになった。酒井航(ワタル)だった。
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