先生≠彼【完】
#6
夜の冷気がひんやりと頬を刺した。だけど、裏腹に掌にはじんわりと汗が滲む。…緊張してる、あたし。
闇の中であたしはけいちゃんの気配を、必死に感じ取ろうとした。
あ、今、けいちゃんちょっと笑った。変な顔してるのかな。けいちゃんのしようとしてることも考えてることもわからなくて、ドキドキする。
でも、それは嫌なドキドキじゃない。
けいちゃんは、「ちょっと早いけど、ごめんな」そう言って、あたしの左手を取る。ちゅっと、リップ音を立てて、あたしの小指にキスすると、けいちゃんはそこに何かを嵌めた。
(あれ、お仕置き…?)
「…けいちゃん…?」
「目、開けてもいいよ、千帆。けど、文句は受け付けないから」
そう言ってふざけてけいちゃんは耳を覆う真似をする。文句? 不思議に思いながら、あたしはさっき、けいちゃんが触れた場所を目の前に持ってくる。
淡いピンクの緩やかなS字のアームの中央にハートが光ってる。可愛いリングが、あたしの小指に嵌ってた。
「け…いちゃん」
「誕生日プレゼント。――もうすぐだろ?」
にやりと笑われて、もう頭パニック。なにがどうなってるのか、さっぱりわかんない。お仕置き、じゃなかったっけ?
「何で知ってるの?」
あたし、けいちゃんに一言も言わなかったのに。
「生徒名簿見れば、書いてあるじゃん。誕生日くらい。ちなみに俺、千帆の身長も体重も知ってるよ」
けいちゃんは得意気に言う。やだ、それいちばん知られたくない…。
「こ、個人情報不正取得〜」
「ばーか、役得だよ。それより千帆、気に入った?」
けいちゃんがあたしのリングを指さす。
どうしよ、嬉しい。言葉に出来ないくらい嬉しくて、けいちゃんが好きって気持ちが溢れてくる。
ぐい、とこみ上げた涙と手の甲で拭って、あたしはけいちゃんに抱きついた。
「もう、けいちゃん大好き、絶対一生好きっ」
バカップルそのものの宣言をけいちゃんは、笑って受け止める。
「あはは、ありがと。2日早いけど…18才、おめでとう」
ぐりぐりと頭を撫でて、けいちゃんはあたしに唇を重ねた。
「わかってるだろうけど、学校ではアクセサリー禁止だかんな」
そしてキスの余韻に浸ってるあたしに、真面目ぶった先生みたいな注意をする。
「はーい」
「とりあえず旅行中はこれにでも入れとけ」
けいちゃんはショップの袋の中から、リングのサイズにぴったりのピンク色の巾着を取り出した。ブランドのロゴ入りで、紐は白。これだけでも可愛い。
「うん」
貰ったリングをその中に入れて、あたしは大切にポケットに閉まった。
この指輪もこの夜も、そしてけいちゃんを好きな気持も。全部あたしの宝物。3日早い誕生日をあたしは、最高の形で迎えた。
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