[携帯モード] [URL送信]

先生≠彼【完】
#5

「こっちのが星が多いんだね」
「星の数は変わらないよ。見えるか見えないかの違い、だろ?」

空の星が、手を伸ばせば届きそうに思えるくらい、近くておっきい。地上の草原はもう真っ暗で、塗りつぶしたみたいに黒い。だからこそ、星が煌くんだ。


「ここ、勝手に来ていいの?」
「前に近くの村が土砂災害で陸の孤島になったらしい。その時はレスキューのヘリで避難するしかなくって、それ以来屋上は緊急時用に開けてるんだって。ま、今使っていいかどうかつったら…」

見つかったらアウトだろうな。したら、今度は俺とお前で反省文か? なんて、けいちゃんは言ってカラカラ笑う。2日連続居残り反省文は嫌〜。


「平気だよ、こんなとこ誰も来ないって」
「……」
「千帆と見たかったんだよね。この空…」

けいちゃんの手があたしに伸びる。あたしも自然にけいちゃんの手を握った。綺麗な夜空。けいちゃんのあったかい手。これ以上ないくらいロマンチックなシチュ。

でも、引っかかることがひとつあって浸れない。


「…けいちゃん、怒ってないの?」
「え?」
「ほら、昨日の…」
「散々怒られたじゃん、お前ら」
「あ、いやそうじゃなくて」
「カレシとしては怒らないの?って」
「う、うん…」
「怒られたいの? 千帆」
「そーゆーわけじゃないけどっ」

慌てて否定すると、けいちゃんは首に手を当てながら、うーんと唸った。けいちゃん自身も説明しにくみたい。


「最初は見逃すつもりだったんだよね。お前らの部屋の空気が違うことなんて、一歩足踏み入れた瞬間にわかったし。みんなそういうもんみたいだし。酒やタバコやってない限りは、一回目の点呼は大目に見るケースが殆どです、って言われてたし、まあ、自分顧みても…ねえ」

修旅の消灯時間になんて、寝た試しないし。と、けいちゃんは付け足す。


「じゃあどうして…」

あたしの名前を呼んだ後の間は、けいちゃんの迷いだったんだ。


「助けて、って千帆が言ってる気がしたから」
「……」
「だからアレは、教師としての態度じゃなかったんだ。あーもう、社会人になってから、彼女と修学旅行なんてするもんじゃないね。千帆の周り変な野郎ばっかりだし、ふたりきりにはなれないし、ストレス溜まりまくり」

深く溜息ついてから、けいちゃんがはっと思い出したように、あたしの頬に手を当てて、ぐいと上向かせて、真剣な顔で訊く。


「お前、あんな狭いとこ、あいつとふたりで入ってて何もされなかった?」

本気の心配も、過度の束縛も、嬉しくて、心がくすぐったくなる。


「うん、平気」

けいちゃんにするドキドキと、酒井くんと感じるドキドキは、全く違う。けいちゃんが好き。大好き。けいちゃんの腰に腕を回した。

けいちゃんがほっと息をつくのが、重ねあった胸越しに伝わってくる。


「けいちゃん、カッコ良かったよ」
「当たり前。つか、お前、俺が注意したの、まっっっったく無視したよな」
「…いやえっとその」

今回のは不可抗力。って、言い訳は通用しないかなあ。


「お仕置きもんだよなあ。――春日、気をつけっ」

教室内みたいな号令掛けられて、あたしは反射的に姿勢を正す。背筋伸ばして、手は太腿の横。直立不動のあたしを見て、けいちゃんは楽しそうに目を細める。


「目つぶって。いい、って言うまで動くの禁止、な」

ゴクン、と生唾を飲み込んで、言われるままに目をつむった。




[*前へ][次へ#]

5/11ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!