先生≠彼【完】
#3
みんなで蒼白になって、出てたお菓子やジュースを片付けて、男の子たちも逃げるタイミングなくなって、みんなで一斉に布団に潜り込んで、誰かが電気を消した。
「春日」
小声で呼ばれて振り向くと、重苦しい掛け布団の中で、酒井くんと目が合った。
女の子の数の分しかお布団ないから、しょうがないのはわかるんだけど、まさか一緒に入り込んだのが酒井くんだったなんて。
「わりぃ、ちょっとだけ我慢して」
小声で酒井くんに言われて、あたしは頷く。頷くけど、ドキドキしてしょうがない。何故か今頃、けいちゃんの言葉を思い出した。
『お前、警戒心ゼロだから言っとく。酒井って、絶対お前に気があるぞ』
あの時は、いやまさかそんな…って、けいちゃんの言葉、話半分にしか聞いてなかった。でも、けいちゃんに酒井くんとふたりきりになるなよ、って言われてたのに、こんな場面見つかっちゃったらどうなっちゃうんだろ。
「春日の心臓の音、こっちにも聞こえる」
いやそんなあなた。笑ってる場合じゃないし。けいちゃんの足音が部屋の前で止まって、ドアのノブがかちゃりと動く。
「3年4組、C班、点呼取るぞ」
けいちゃんの声が聞こえた。この部屋にいる女の子の名前をけいちゃんがひとりひとり呼んでく。
「春日千帆」
その声は、いつも通り無機質で、なんの感情もない。ふたりでいる時の「千帆」って呼ぶ時とは全く違う。もう、慣れたけど。
けいちゃんにバレませんように。だって、バレたらきっとめちゃくちゃ怒られる。担任としても彼氏としても。
でも。
この息苦しさから早く解放されたい。
「…はい…」
迷いが、声に乗っかったのか、あたしの返事は震えてしまった。ほんのちょっとだけ。
等間隔に名前を読み上げてたけいちゃんが黙りこむ。次は、七海の名前、呼ぶはずなのに。
しーんと静まり返った暗闇に、緊張だけが蔓延した。
「春日?」
何故かもう1回、あたしの名前を読んで、けいちゃんは部屋の灯りを点けた。いくら隠れてても、ひとりが潜り込むのと、ふたりでは全く盛り上がりが違うのか、けいちゃんにはすぐにバレた。
「誰だよ、隠れてんの。乱暴なことしたくないから、他の部屋の奴らは自分から出てこい」
あ〜、って溜息や舌打ちが部屋のあちこちから聞こえる。
「すみません…」
真っ先にけいちゃんの前に出たのは、酒井くんだった。それをきっかけに、金子くんを始めとする男の子たちも出てくる。
「いい、度胸だな…1日目から」
ひくひくっと整った眉を、けいちゃんはひきつらせた。
だけど、酒井くんたちは全く悪びれずに、けいちゃんの勘の良さを不思議がる。
「つか、センセー、何で分かった? 春日の返事、フツーだったじゃん」
「そうだよ、絶対ばれないと思ったのに」
酒井くんや金子くんが口々に言うのを、けいちゃんは持ってた名簿を壁に叩きつけて黙らせた。
「教師、舐めんなよ、お前ら…っ」
…けいちゃんが怒ったとこ、初めて見た。
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