先生≠彼【完】
#2
「なーに、レズってんの?」
ふざけてたら、からかう声が飛んできた。見ると、梅ヶ枝餅を手にした酒井くんだった。
「食う?」
と食べかけのを出されて、あたしはふるふると首を振る。思ったより大きくて甘くて飽きちゃったらしい…て、子どもっ。
「何だ、酒井か」
と七海もまるで犬でも寄ってきたみたいな顔をする。
「あんた、やたらちぃに纏わりついてない? 仲良しの金子くんは何処行っちゃたのよ」
「あー、それがさ」
酒井くんはまたまた白い歯を見せてにっと笑って、背後を親指で指す。参道に並んだ石灯籠の影に、酒井くんの親友の金子くんと同じクラスの広川さんの姿があった。
手が触れそうな距離で話し込むふたりは、あたしと七海と酒井くんの周囲とは全く違う甘ったるいオーラで包まれてる。漫画で言うなら、ハートでも舞ってそうな。
「…付き合ってたっけ? あのふたり…」
七海と目を合わせて聞くと、酒井くんは得意気に言う。
「3日前から付き合ってるぜ」
「へぇぇぇ」
「ほぉーっ」
…増えるよね、修学旅行ってそういうの。ああ、それで酒井くんあぶれちゃって、あたしの周り徘徊してるんだ。ちょっと可哀想。
けいちゃんに忠告されたことは、まるきり頭から抜け落ちて、あたしは勝手に納得してた。
午後はスペースワールドを見て、福岡と大分の県境の鄙びた温泉に泊まる。古そうな宿で、お世辞にも綺麗とは言いがたい。他になかったのかな…。
入る前からみんながボロいだの、きたねえ、だの、けいちゃんに文句言い通しで。
けいちゃんは苦笑いしながら、「あんまり失礼なこと言うなよ」と生徒を諌めてたけど、「俺だって、ヤダっつーの」みんながワイワイ言いながら、宿の玄関に入った時ポツリと呟いたそっちのが本音。
埃アレルギー大丈夫か?と思ったら、やっぱり鼻ぐじゅぐじゅさせてたし。
「あら、先生が風邪ですか?」
と宿の女将さんに聞かれて、けいちゃんは目を充血させながら、否定してた。
この宿は、一室5〜6人の大部屋だった。夜9時以降は自由時間で、11時には消灯…ってなってるんだけど、もちろんみんな寝やしない。ジュース買ってきて、持参のお菓子広げて、ガールズトーク…と思ったら、金谷くんや酒井くん、他にも男の子がふたり遊びに来ちゃった。
金子くんの出来たてほやほやの彼女の広川さん、同じ部屋だったから。もちろん、このふたりに話題集中。
「いつから付き合ってるの?」
「告ったのどっち?」
「何処が好き?」
みんな容赦ない質問攻め。広川さんは恥ずかしいのか殆ど答えないけど、金谷くんはノリノリで答えてくれた。ノロケも全開。
なんか、いいな。こういう風にみんなの前であけっぴろげに出来るの…。ちょっと羨ましい。
ほうっと溜息をつくと、こっちに矛先が回ってきた。
「千帆こそ、どーなのよ」
「そうだよ、彼氏いるんでしょ?」
散々詰め寄られて、暴露させられる。こーゆー時の女の子の集団ってコワイよね。
「千帆の彼氏って年上なんだ」
「え、いくつ?」
「何処まで行った?」
「キスとかやっぱうまい?」
あたしのお布団の周りにみんなにじり寄って聞く。
「22? えっとえっと、最後まではしてない…。初カレだから、うまい言われても、わかんない…」
とりあえず、けいちゃんのプライバシーの侵害にならないような当たり障りのないことだけ、答えてみた。
そんな感じで盛り上がってたら、ある子のスマホにラインのメッセージが入った。同じクラスの別の部屋の子。
「今、遠藤ちゃん点呼回ってるよ〜、…だって」
「!!!!」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!