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先生≠彼【完】
#4

悲しくて、涙がぼろぼろこぼれてきた。こんな曖昧な関係で、こんなどさくさまぎれに。あたしの思い描いてたシチュエーションと天と地ほど違う。


「え、もしかして初めてだった?」

あたしの涙に気づいて、けいちゃんが慌てて言う。あたしは大きく首を縦に振った。

「もしかして嫌だった?」
「嫌っていうか…、可愛かったから、なんて理由で簡単に女の子にちゅーしちゃうけいちゃんが信じられない。誰にでもするんですか、こんなこと」

あたしは激しくけいちゃんを詰る。


「誰にでもなんてしないよ」

いつもはほわほわと喋るけいちゃんが、力強く断言する。その凛々しさに一瞬キュンとなったのも束の間。


「千帆が好きだから…って、俺、言ってなかったっけ?」

けいちゃんは、自分で首を傾げながら、あたしに訊いてくる。何この脱力感。

今度はあたしは、ぶんぶん首を横に振った。聞いてない聞いてない。


「え、だって、一緒に映画見に行ったり、今もこうしてドライブ行こうとしてるんだし…俺の気持ち、わかってたでしょ?」

続く質問もあたしは首を横に振る。あたし、そんなに自惚れてません、けいちゃん。


「あー、そうなんだ。じゃあ、付き合ってるつもりでいたの、俺だけ?」
「うん」
「そっかあ」

けいちゃんは、ふうと大きく溜息をついて、ハンドルに両手を組んで載せる。その腕に顔を置いて、助手席のあたしの方を見た。

あ、なんか反則、その縋ってくる子犬みたいな目。

けいちゃんに怒ってるのか、どさくさまぎれに暴露された思いが嬉しいのかわかんないまま、あたしはドキッとなってしまう。


「でも千帆は俺のこと好きでしょ?」

自信たっぷりにけいちゃんは言う。何処から来るんだろう、その余裕。顔の良さか、年の功か。


「好き…だけどっ」

言わされた感満載の告白に、けいちゃんは万事解決、みたいに満足気に言う。


「じゃあいいじゃん、付き合ってる、ってことで」
「え?え?え?」

なんかすっごい損した気分。告白した? された? されたの? 私。


「よろしくね、千帆」

けいちゃんは、アイドル並みの爽やかなスマイルをあたしに向けた。


「えーーーー」

肝心なとこ、すっぽかされて、あたしは思い切り不満で、口を尖らせた。


好きな人から、告白される。どきどきの一大イベントが、超おざなりにされたまま、事態だけが進行しようとしてる。こんなの、やだ。



「ダメ?」
「だって、ちゃんと言ってくれてない」
「え、言ったじゃん」
「全然ちゃんとしてないぃぃ」

そっかなあ。とけいちゃんは浅く溜息をついてから、あたしの方を見た。視界にはお互いの顔しか映らないくらい、近づいてくる。こんな至近距離で、真顔で見られると、あたしは蛇に睨まれたカエル。

けいちゃんの目線に縫いとめられたように動けない。けいちゃんは、そのままあたしに囁く。


「好きだよ、千帆。だから俺の傍にいて。俺と、付き合ってください」
「…は、はい」

返事をしたあたしが、恥ずかしくて俯こうとするその顎を、けいちゃんは素早く捉えて上向かせる。

またけいちゃんの顔が近づいてきたと思ったら、そのまま唇を重ねられた。



こうして、あたしとけいちゃんは恋人同士になった…。

思い出すだけで、にやける。ほわんほわんと、今なら空も飛べそうなくらい、気持ちが舞い上がってた。




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あきゅろす。
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