先生≠彼【完】
#8
SIDE Keisuke
学年会議を終えて、俺は職員室に戻る。学年会議だ職員会議だ、無駄に拘束時間が長い。学校の中も、一般の企業と変わりない。
会議室を出た途端、ひとつ欠伸をしたら、隣のクラスの担任の本田先生に肩を叩かれた。
「生徒に見られますよ」
いや教師だって、欠伸くらいフツーにすると思うんですけどね。3つ年上で数学を受け持ってる本田先生は、年が近いこともあって、よく話す。偉ぶらないし、聞いたことは丁寧に教えてくれるし、優しい穏やかな人柄は、生徒だけでなく先生からも信頼されてる。ちょっと真面目過ぎるきらいがあるけど。
「あ、すみません」
「戻ったら一服しませんか?」
とこの場合のこれは、タバコでなくてティータイム。職員室内でも禁煙になり、消費税も上がって、喫煙家の先生は片手に余るほどしかいなくなった、ということだ。教師の数は50名以上いるのに。
「コーヒー淹れますね。僕」
少しは年下らしさを見せようと言うと、「いいですね」と本田先生は笑った。
そんな話をしながら、職員室に戻ると、ひとりの女生徒が俺を待ち構えるように立ってた。
「遠藤先生」
駆け寄ってきたのは沖本綾乃。本田先生のクラスの女生徒だ。でも俺に用があるらしい。「遠藤先生人気ありますね」一言呟いて、本田先生は先に職員室に戻ってしまった。
頼むよ、沖本。自分の担任にも気使ってくれよ。ついでに俺の学内の人間関係も。
しょっちゅう彼女に追いかけられて、俺はうんざりし始めてる。千帆も気にしてるし。
それでも生徒を邪険には出来ないのだ。
ちょっと引きながら、俺は彼女の前で立ち止まった。。
「何?」
「すみません、こんなところまで。ちょっと質問いいですか?」
と言って、教科書の付箋のついたページを開く。再来週から始まる試験のメインになるであろう荘園制度について書かれたページだった。
教科書を一緒に覗きこむような格好になると、彼女は少しはにかんで、ちらっと視線を紙面ではなく俺に向ける。それには気づかない振りをして、彼女の質問に答えた。
歴史の勉強は好きらしい。知識もそれなりに持ってる。その入手先もわかりそうな偏ったものだけど。ま、ゲームとか漫画とかで、興味を持つのはいいことだよな。戦国BASARA面白いよなあ。俺の専門分野じゃないけど。
教科書に書き込む沖本は、一見至極勉強熱心で真面目な生徒に見える。ただ、問題はこのあと、なんだよな。
先日の彼女はいるか?の質問に始まり、次は「写真を見たい」。断るとどんな人なのかをしつこく訊いてくる。
今日は何を言われることやら…。質問に納得して、教科書をぱたんと閉じた彼女に、つい身構えてしまう。
沖本はえくぼを作って、俺に微笑んできた。
「先生、そういえばあたし、昨日の放課後、図書室行ったんです」
言われて、ぴくんと眉が上がってしまった。
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