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先生≠彼【完】
#3
考えてみれば偶然でもなんでもなくて。同じ日に本を借りた場合、返却期限が一緒なんだから、同じ日に来館する確率が高いわけで。

それでも3回くらい続けて、マスク姿のイケメンのお兄さんに会えると、なんだか運命みたいに思えた。図書館は本ではなく、マスクのお兄さんを探す場所になってた。

いつの間にか連絡先を交換しあって、いつの間にか図書館以外に一緒に出かける約束をするようになる。


「それって付き合ってるの?」

七海にけいちゃんとの関係性を聞かれても、イマイチよくわからない。

誘ってくれるからOKした。あたしにとっては、それは一大事件でどきどきわくわくのデートだけど、彼にとっては、そんなに深い意味はないかもしれない、いやきっとない。

あたしは必死に防衛戦を張ってた。あとで傷つくことがないように。


「この間、映画は一緒に行ったけど」
「なんの映画?」
「世界遺産の旅」
「なにそれ、しぶっ」
「マチュピチュ、綺麗だったよ。行ってみたくなった」

七海は盛大に溜息をついた。


「そのあとは?」
「んーと、映画館のあるショッピングセンター内のレストランで、パスタ食べた。で、そのあと、ぶらぶらショッピング…」

その時に手を繋がれたことを思い出して、あたしの語尾がうやむやになる。「千帆ちゃん、目を離すとすぐにいなくなっちゃいそうだから」あたしは5才児じゃない。でも、いなくなったら迷子案内とかされちゃうかもしれない。横浜市からお越しの〜嫌、嫌すぎる。

だからおとなしく手を繋がれてた。お父さんのよりおっきなけいちゃんの手は、ドキドキするより、凄く安心出来た。


「ふーん、でもちぃは好きなんでしょ?」

七海は突然、直球を投げてくる。自分でも薄々感付きつつある気持ち。でも、認めるのが怖い気持ち。


「そ、そんな…。だってすっごいカッコイイし、年離れてるし。あたしのことなんか対象外だよ」

対象外。自分で持ちだした言葉に、自分で傷ついた。けいちゃんにとってあたしって、妹みたいなものなのかな、って思うから。


「けど、中味が残念って言ってたじゃん。コクっちゃえばいいのに」

友人ならではの遠慮のない、そして無責任な言葉は無視。


「千帆ちゃん、元気ないね」

単純なあたしは、すぐに顔に出る。次に会った時、イキナリけいちゃんに言われた。早咲きの桜があるから、見に行こっか。そんな風に誘われた、初めてのドライブデートの日。


「え」
「具合悪いなら遠出やめておく?」
「だ、大丈夫ですよ」

でもほら。運転席から身を乗り出して、けいちゃんはあたしの顔を覗き込む。

綺麗な目も、心配そうに下がった眉も、好き。って強く思った。ドキドキドキドキ、あたしの心臓破れそう。


「熱とか、ないよね」

けいちゃんは、無造作にあたしのおでこに手を置く。


「ちょっ…」

こんなことされたら、熱なくったって体温上昇するよ。瞬時に真っ赤になったのが、けいちゃんにもわかったらしい。


「千帆…」

真顔になったけいちゃんは、何故かあたしの名前を呼び捨てで呼ぶ。あれ? あたしが違和感を覚えてる間に、その唇はどんどんあたしに近づいてくる。

ちゅっ、と唇に触れられて、あたしは更に真っ赤になって、更に体温が上昇した。というか、頭の中もショート寸前。


「け、け、けいちゃん…っ」
「あ、ごめん、可愛かったからつい…」

けいちゃんは大して悪びれてなさそうに、にこっと笑う。つ、つ、つい?

あたし、あたしのファーストキスぅ。




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