先生≠彼【完】
#6
「お前、傍からみて警戒心ゼロだから言っとく。酒井って、絶対お前に気があるぞ」
「まさかあ。酒井くんは友達だもん。彼氏いるって言った時だって、あっさりしてたし」
たとえば沖本さんが、けいちゃんに同じこと聞いてた時みたいなショックは受けてなかった…と思う。
けいちゃんの注意を、あたしが一笑に附すと、けいちゃんは不機嫌な顔になる。
「映画だ、ドライブだ、さんざん付き合っておいて、俺の気持ち全く気づいてなかったの誰」
けいちゃんはあたしの首を腕に抱え込んで、もう一方の手であたしの頭をぐりぐりする。
「…あたしです」
だって、あれは。けいちゃんみたいな年上のカッコイイ人が、あたしなんかを好きになるはずはないだろうっていう、思い込みが…。
ぶつぶつあたしが独り言めいた言い訳続けてると、今度は指先でパチンと額を弾かれる。
「ばかになっちゃうから、頭攻撃しないで」
それでなくても受験生なのに。
「本を読むにも、歴史を紐解くにも、――恋愛するにも、いちばん必要ないと思うけどね、先入観。千帆は頭で、こんなはずない、こんなことあっちゃいけない、って考えすぎだよ。自惚れないのはいいとこだと思うけど、警戒心ないのは、彼氏として心配」
「…酒井くんには近づくな、ってこと?」
「違うよ。そうかもしれない、って思って行動しろ、ってこと」
けいちゃんの注意は遠回し過ぎてよくわかんない。
「もっと具体的に…」
「安易にふたりきりになったりすんなよ、って言ってるの」
あたしの物分かりの悪さに焦れたのか、けいちゃんは端的に言って、あたしの両頬を左右から引っ張る。
「お前、俺にわざと言わせてるだろ」
「ひがいまふ」
けいちゃんに引っ張られたままで、口がつれてうまく喋れない。あたしの無様な顔をけいちゃんは、面白そうに見下ろす。こんな顔、イケメンのけいちゃんに見られるとか、何の拷問。
なのにけいちゃんは乙女ゴコロを全く理解してくれない。どんどんあたしに顔を近づけてくる。やだよお、見ないでよお。
恥ずかしくて、目を伏せたら、唇に熱い衝撃を受けた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!