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先生≠彼【完】
#5

本棚の側面に背中を預けて、あたしを後ろから羽交い締めにしたまんま、けいちゃんはくすっと笑って、ゆっくりと口を覆った方の手だけ下げた。笑うとこじゃないと思うんだけど。


「怖かった? 千帆の心臓、すごいばくばくしてる」
「び、っくりするに決まってるじゃん」

まだドキドキしてる。っていうか、当分収まりそうにない。


「だって、普通に話しかけられたら、逃げられそうだったから」
「…逃げないから、離して。けいちゃん」

そう言ったのにけいちゃんは腕を解くどころか、あたしの項に顔を埋める。けいちゃんの熱い息が襟足に掛かって、くすぐったさに声が出そう。



「こんな場面見つかったら、どうなるんだろうなあ。俺ら」

学校では触れない。ふたりで決めたルールを犯しておいて、けいちゃんは寧ろこの状況を楽しんでるようにのんびりと呟く。


「クビだよクビ。ロリコン教師、教え子の女生徒に猥褻行為…なんて、週刊誌とかワイドショーとかで叩かれて」
「意外と下世話な言葉、知ってるね、千帆」

妙なとこに感心してから。


「千帆は賢いから、わかってるでしょ? 俺が、学校ではお前に何も言わないのはそういうことだって」

けいちゃんはやんわりとあたしを諭す。


「…うん」

頷くと、けいちゃんの腕があたしから離れてく。すぐさま振り返ると、けいちゃんはバツが悪そうに笑ってた。


「今回は俺も大人げなかったけど」
「けいちゃん、嫉妬した?」

ずばりと聞くと、けいちゃんは焦ったのか、言葉に詰まってごほごほとむせる。「学校ってどうしてこう、何処もかしこも埃っぽいんだろうな」そんなざーとらしい言い訳しながら。


「…したんだ」

にんまりして勝ち誇ると、けいちゃんにおでこ小突かれた。


「いたっ」
「オトナをからかうな」

ちぇ、いいじゃん。いっつもあたしのこと、からかってばっかりいるくせに。大して痛くもなかったおでこをあたしは、指でさすっていたら、けいちゃんはふっと真顔になった。



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