先生≠彼【完】
#4
次の日、教室に入ってきたけいちゃんは、あたしと目を合わせてもくれない。フツーに教壇に立って、何事もなかったかのように、HR始めてる。
おとなげな〜い。自分のことを棚上げにして、けいちゃんへの怒り再燃。
日本史の授業の時も、あたしは徹底的にけいちゃんを見なかった。けいちゃんが黒板の方を向いてる時に、こそこそと黒板の字を書き写す。
子どもっぽい反抗。こじれるだけで、何の意味もない。でも、仲直りの緒が掴めなかった。
次の日もそんな感じで、けいちゃんの授業はなかったけど、SHRの時はなるべく下向いてた。
「どしたの、ちぃ」
七海に心配されるくらい、あたしの態度サイアク。
「なんでもないよ」
「そっかあ? 昨日から、ずっとぶんむくれてる」
七海はそう言って、頬をふくらます。向日葵の種を目一杯頬張ったハムスターみたい。あたし、今そんな顔?
七海の前でもふてくされてた顔してたことに反省。ほっぺをこすって、マッサージしてたら、七海が心配そうに聞いてきた。
「ちぃさあ、彼氏となんかあった?」
「え?」
七海はあたしから振らない限り、人の恋バナをしつこく聞いたりしない。そういえば、新しい学年になってけいちゃんの話を一度もしてこなかった。
「いや最近、話題に出ないから。埃アレルギーのけいちゃん」
「……」
流石に、あたしのけいちゃんが、遠藤先生とは七海も気づかないらしい。写真の1枚も見せなかった自分の用心深さに拍手。
話題に出ないというか、ボロが出そうで出せないだけ、なんだけどね。親友にさえ言えない恋。こんなの、正しいのかな、けいちゃん。
「忙しくて会えないから、話すネタがないんだ…」
そう誤魔化して、あたしは図書室に逃げ込んだ。
別に当番でも借りる本があるわけでも何でもない。ただ、けいちゃんと繋がっていそうな場所に居たかった。
放課後の図書室は相変わらず人もまばら。あちこちあてもなく館内を歩いていたら、突如後ろから腕を引かれた。
「!!」
驚いて声をあげようとしたのに、背後から口を掌で覆われて、もう一方の腕で抱きしめられる。そのままあたしの身体は、通路からは死角になる本棚の影に引きずり込まれた。
「乱暴なことしてごめん。俺に、5分だけちょうだい、千帆」
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