先生≠彼【完】
#1
委員会の初めての招集が掛けられたのは、4月も終わる頃だった。図書委員は図書室集合。机と椅子を中央に集めて、会議用にセッティングして、委員長やこれからの当番を割り振りを決める。
司書の先生と去年の図書委員の委員長が、中心になって、いろいろ議題を進行させてくれる。けいちゃんは、新米の先生らしく、窓際に立って、メモを取りながら、会議の様子を熱心に見てた。
あたしは、ちらちらそんなけいちゃんに視線を送る。その時に気づいてしまったことがあった。
…沖本さんも同じ委員なんだ。
先日の公園でのことを思い出して暗い気持ちになった。あとで、けいちゃんに聞いたけど、家が割りと近いらしい。あの公園にもコーギーを連れて、よく散歩に行ってるみたい。
また、あたしと鉢合わせたり、けいちゃんの家、見つかったりしなきゃいいけど。
そんなことを思っただけで、溜息が出てくる。それを隣の席の酒井くんに聞かれてしまった。
「もう、終わるよ」
あたしの溜息が、委員会の長さに嫌気がさしたものだと思ったらしい。酒井くんは小声で言って、にかっと笑う。
結局委員会が終わったのは5時過ぎだった。
「遠藤先生」
真っ先にけいちゃんの近くに走り寄って行ったのは、あたしじゃなくて沖本さん。あたしのけいちゃん、じゃ今はないにしても、うちのクラスの担任なのに…。つまんない独占欲が抑えきれない。
ペンケースにシャーペンを終い、ノートを閉じながらも、沖本さんの甘ったれた声に集中してしまう。
「先生も図書の先生なんですね」
「ああ」
「この間も、偶然公園で会っちゃうし、先生とあたし、なんか偶然多くないですか?」
「え?」
偶然が続けば運命だとでも言いたいのか、沖本さんの言葉にけいちゃんは、明らかに言葉を詰まらせた。
だけど構わずに、彼女が続けた言葉に、あたしまで絶句。
「うち、あの公園の近くなんです。また、アン散歩させてたら、先生に偶然会えないかな?」
アンって、あのコーギーの名前かな。家、近いんだ…。けいちゃんちからも、歩いて10分掛からないくらいなのに。
「そうなんだ。じゃあまた、会えるかもね。いつも沖本が散歩させてるの?」
「週末だけです。学校ある時はママが」
「そっか、偉いね沖本」
けいちゃん、グッジョブ!。さりげに、彼女の行動パターン聞いてくれてありがとぉ。土日は、絶対あの辺り近寄らないようにしよ。
「先生、さようなら」
ふたりの脇をすり抜けるように、あたしはけいちゃんに声を掛ける。
「気をつけて帰れよ」
けいちゃんはきゅっと目を細める。優しいそのカオ、好き。あたしもけいちゃんに笑顔を返す。
言葉にしなくても、思いが伝わるように。
そのまま、部屋を出ようとしたら、肩をぽんと軽く叩かれた。
「春日、一緒に帰ろうぜ」
けいちゃんの目の前で、あたしに声を掛けてきたのは酒井くんだった。
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