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先生≠彼【完】
#4

けいちゃんはにっこり笑って、あたしに本の束を渡す。


「913の6、はい、これ持ってって」
「へ?」

ハクション。あたしが目を丸くしてると、けいちゃんはあたしから顔を背けて、くしゃみをする。苦しそうに鼻を啜りながら言う。


「な、何ですか、これ」

お、重い。突然あたしの両腕にのしかかった本10冊分の重みに耐えながら、あたしはけいちゃんに聞く。

「今月新しく入荷した本。棚番号表、そこにあるだろ? 背表紙の分類コードに合わせて棚に入れてきて。これ、全部」
「ええええええ」

つまりパシリ。いたいけな女子高生を顎で使わないで。思い切り不服そうにけいちゃんを睨む。


「なんだよ、お前図書委員やるんだろ?」
「だって、何で先生がこんなこと…図書の先生、いるよね」
「司書の資格持ってるから」
「変なの」
「校務分掌って、システムがあってだな…ま、いいや。仕事仕事。全部出来たらご褒美やるから」

けいちゃんの仕事なんじゃないのお? 何なの、この下請け孫請けシステム。反論しようと思ったけど、『ご褒美』の言葉につられて、甲斐甲斐しく働いてしまった。あたしって、単純。


あたしに重労働させておいて、けいちゃんはカウンター内のデスクで事務作業してた。恐らく今あたしが棚に並べて来た本を、パソコンで検索掛けられるように入力してる。


「終わりましたけど」

あたしは不貞腐れた声で、けいちゃんに言う。


「ああ、ありがと」

モニター画面を見てたけいちゃんは、あたしに微笑んだ。教師みたいな、笑い方だった。


「…先生」
「ん?」
「先生は慣れました?」

何に、とはあたしは言わなかった。先生の仕事。あたしたちの不自然なこの状況。どっちにでも取れるように。他の人が聞いても、疑われないように。


「…春日は?」

あたしに逆質してきて、けいちゃんは自分の隣の椅子を引いた。こっちにおいで。声に出さない誘いに、あたしはカウンターの中に入って、けいちゃんの隣に座った。去年までの委員の子かな。カウンターの中にいた当番の生徒が、あたしをちょっと不審げに見る。


「あたしは…あたしはいまいち、慣れないです。どうしていいかわかんないことの方が多い」


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あきゅろす。
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