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先生≠彼【完】
#2

けいちゃんとあたしが知り合ったのは、半年くらい前のこの図書館だった。

古文の課題を片付けるのに、古典文学全集の棚、なんて普段近づきもしない場所をウロウロしてたあたしの耳に、ひっきりなしにくしゃみの音が聞こえた。


(風邪ひいてるのかな)

最初はそう思ったけど、2回3回なんて可愛いものじゃなく、あたしがそのくしゃみに気がついてから、数えてみたら11回もしてた。

気になる! あたしはそのくしゃみの方に近づいてってみる。


グレーのPコートの背中が目に入った。背中を折り曲げて、口元に手を当てて、くしゃみを連発してたその人は、あたしという存在に気がついたのか、くるっと振り返る。

柔らかそうなくるくるした前髪が、眉にかかって、その下の目はすっと切れ長で優しげ。イケメンさんだあ。あたしのテンションがぐっと上がる。


「大丈夫ですか…」

おずおずと声を掛けると、その人は気まずそうに目を細めた。


「す、すみません…うるさくて」

と言いながら、またひとつくしゅん。


「あ、あの…ティッシュ持ってませんか?」

そう言われて、あたしは持ってたバッグからキャラクターの絵柄入りのティッシュを取り出した。こんな可愛いのごめんね、そう言いながらその人はぐじゅぐじゅの鼻をあたしの前でかむ。半分くらい消費してスッキリしたのか、鼻の下を指でこすりながらお礼を言われた。


これが、出会い。

けいちゃんという彼氏の存在を唯一知ってる、親友の七海に話したら、大爆笑された、けいちゃんとあたしの初対面。


「お礼に…」とけいちゃんは館内のロビーで、あたしにジュースを奢ってくれた。なんでもいいよ、って言うから、紙パックのコーヒー牛乳を選んだら、物凄くビミョーな顔してたけど。その理由は、あとでいやというほど思い知る。


けいちゃんは玉露入り緑茶を選んで、それを飲みながら、ちょっとだけ話をした。名前とか年齢とか、近くの大学の史学科の学生さんだってのも、その時に知る。


「風邪引いてるんですか?」

そう聞いたら、恥ずかしそうに頭を掻きながらけいちゃんは言う。


「俺、埃アレルギーぽいんだよね。図書館とか古本屋とか、体育館の倉庫とか。くしゃみ止まらなくなっちゃうの。いつもマスクとティッシュは持ってるんだけど、今日はたまたま忘れちゃって。だから、助かっちゃった」



その時はお互いの飲み物が空になったらバイバイした。

イケメンなのに、埃アレルギーでくしゃみの止まらない、ちょっと残念なお兄さん。けいちゃんはあたしの中で、そんなイメージで記憶に残る。印象は強烈だったから、次にまた図書館で会った時には、思わず声を掛けてしまった。


「遠藤さん…ですよね」

その時はしっかりマスクで完全武装だったけいちゃんは、あたしの顔を見て、マスクを外す。


「あ、ああ。千帆ちゃんだよね」

名前を覚えててくれたことより、いきなりちゃんづけで呼ばれたことに驚いた。





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あきゅろす。
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