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先生≠彼【完】
♯9

SIDE Keishi



さっきまで喜びにほんのりピンク色だった頬が、瞬く間に凍りついて、蒼白に変わっていった。


「ち、違うんですっ。これは、あたしが…っ、合格したのが嬉しくて、感極まっちゃって、遠藤先生に抱きついちゃっただけで」

そんな顔で、千帆は往生際悪く、聞かれてもいないことをしゃべりだした。ばかだな。もう、ごまかさなくたっていいのに。


もう、嘘なんてつかなくていいように。
堂々と俺のだって言えるように。

俺は、お前にプロポーズしたんだからさ。


「春日、黙って」

どっちみち結婚の報告はしなきゃならない。今ここで、また俺達の関係を歪めたら、今度はそっちが出来なくなる。


「春日はもう、帰ってなさい。――校長、このことで校長に言わなくてはいけないことがあります」
「やだっ、先生っ」

絶望を浮かべた千帆を、俺はわざと遠ざけた。


「彼女は君のクラスの生徒だね?」

ふらふらと歩く千帆の背中が小さくなってから、校長先生は俺に確かめる。何百人何千人もの生徒を教師を見てきたその慧眼はとっくに見抜いてるんだろう。俺と千帆の関係なんて。


「はいそうです」
「確か、以前に君との噂が持ち上がっていたね?」
「はい」
「あの時、君と春日さんはきっぱりと交際の事実を否定していたはずだが」
「……」

小さい頃によく言われた。ひとつ、嘘を吐いたら、その嘘を真実にするために、また嘘を吐かなきゃいけなくなるって。


自分たちの恋と立場を守るために、俺と千帆が重ねてきた幾つもの嘘。正しいと信じてきたそれらは、本当に正しかったのだろうか…。

いっときの難は逃れても、それじゃ何も解決しない。だからこれは、最後の嘘。


「あの時は本当に何も…。でも、それ以降、お互い気になる存在になっていったのは事実です」

いつから、とか、どうやって、なんて、ホントは俺達に関係ない。多分、どんな形で出会ってても、俺は千帆を好きになってたと思うから。


「嘘から出た真というわけか。…あとは、校長室で聞こうか。授業が終わったら、校長室に来なさい」
「わかりました」

校長が歩く後ろを俺は歩いて校舎に戻る。ある種異様な空気を感じ取ったのか、みつきが俺に話しかけてきた。


「どうしたの?」

と聞かれて、俺は簡単に経緯を説明した。


「ばかじゃないの? ホント迂闊なんだから」

額に手を当てて、みつきは心底呆れたと言うように、そうぼやいた。次の授業の準備をして、廊下に出てからみつきの問に答える。


「…どうせ言うつもりだったから、遅いか早いかの違いだよ」
「言うつもり、って…」
「卒業したら、千帆と結婚するつもりだから。もう、お互いの両親の承諾も得てるし」

みつきは大きく目を見開いた。


「…本気なの?」




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