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先生≠彼【完】
♯3


千帆もそうだけど、この年代の女の子の進化度って凄い。勢いと、パワーに圧倒される。


「生徒が先生に抱く感情なんて、みんなそんなものだろ? で、恋じゃない、って気づけた、ってことは、今はホントに好きなやついるんだ」
「……」

俺の指摘に沖本は途端に黙りこくって、俯いた。あ、図星だったらしい。しばらく髪を弄って、気まずそうにしてた沖本は、意を決したように言った。


「でも…遠藤先生の授業、本当に好きでした。歴史はもともと好きだったけど、もっと深く学びたい、って思ったのは、先生のお陰です」

多分沖本が、今日いちばん俺に言いたかったのはコレで。今度は、俺が絶句させられる番だった。

進行が上手かったり、説明がわかりやすかったりしたはずはないんだ。だって、俺、ペーペーの新米教師だから。

でも、俺なりに努力したり工夫してたことを、認めてくれた生徒がひとりでもいた、って言うのは、嬉しくて、大げさなんだけど、1年やってて良かった…って、そう思った。


「ありがと」

心からの感謝を伝えると、沖本は「こちらこそお世話になりました」と、ペコリと頭を下げて踵を返す。


膝上10センチと割りと長めのスカートの裾を翻しながら、沖本は迷いなく廊下を前進する。


成長した鳥がやがて巣を飛び立つように、ここを去って行ってしまう生徒を、俺はこれから何人も何人も見送るんだろう。


教師という職の歓びと寂しさを感じながら、ポケットに手を突っ込んで、俺もゆっくりと職員室に戻った。


夜、千帆から電話が来た。


興奮気味の声は、試験がうまく行ったことを物語ってる。結果がどうなるかはわからないけれど、千帆なりに精一杯のことは出来たみたいで、俺もほっとする。


「俺の写真、役に立った?」
「それなりに」

それなり、かよ。ま、千帆の口が減らない時は、機嫌がいい時だからいいや。


「会いたい…」

燻り続けてる本音をぶつけると、スマホ越しでも、千帆の慌てぶりが手に取るようにわかった。


「え? けいちゃん? いや、あたしも会いたいけど…、ど、どうしたの? 何か、あった?」
「何もないよ」
「お、お母さん誤魔化して…会いにいこっか?」
「ごめん、嘘…じゃないけど、我慢する。今、お前に会ったらいろいろやばいから」

春はすぐそこ。桜は咲くのか散るのか。あー、早く笑顔全開の千帆、抱きしめたいな。




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あきゅろす。
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