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先生≠彼【完】
♯9


試験の当日。

朝、いつも通りに起きると、もう朝ごはんが出来てた。フレンチトーストとサラダとスクランブルエッグ。


「わあ、久しぶり。フレンチトースト」
「甘いのは頭の回転良くするって聞いたから…まだ時間あるんでしょ? ゆっくり召し上がれ」
「はーい」

席に着くと、お母さんが淹れたての紅茶を出してくれた。お父さんは向かいの席で新聞読んでる。登校しない日が増えて、朝は寝坊してることが多かったから、朝、お父さんと顔を合わせるの久しぶり。


「何時の電車で行くんだ」

新聞を下げて、お父さんがふいに聞く。


「あ、えっと7時24分」
「じゃあ、駅まで送るから」
「いいの?」
「ああ、今日は朝のんびり出ればいいから」
「ありがと」

お父さんとお母さんのさりげない気遣いが、ちょっとくすぐったい。

朝食を食べて、支度をして、持ち物の最終チェック。けいちゃんには、『行ってきます』って、スタンプだけ送っておいた。


お父さんの車の助手席なんて、久しぶりに乗った。もたもたシートベルト締めてると、お父さんが横で笑う。


「先生の車のが乗り慣れてるか」

どうしてお父さん、わざわざこういう意地悪言うんだろ。


「…最近乗ってないよ」
「そうか。随分渋い車乗ってるよな、あの先生。見た目によらず」
「あーうん。お父さんのお古って言ってたから。お父さん、乗ったことあるの? けいちゃんの車」
「ああ。一度だけ。おうちにもお邪魔したし」
「…知らなかった」
「言わなかったか?」
「聞いてないよ」

もうもう。お父さんもけいちゃんも、すぐあたしをみそっかすにするんだから。むくれて、あたしはフロントガラスを睨みつける。

歩いても15分足らずの距離。車だったら、あっという間に駅に着いてしまった。締めたばかりのシートベルトを外して、足元のリュックを膝に抱きかかえて、降りるスタンバイした時だった。


「千帆。思い切りやってきなさい。万が一の時の準備は、ちゃんとお父さんもお母さんもしてあるから。頑張って」

駅のロータリーに車を停めたお父さんは、前を見つめたまんま言う。

あたし、我儘ばっかり口ばっかりなのに。お父さんもお母さんもけいちゃんも。あたしを信じて、背中を押してくれる。


「…うん」

涙に詰まった声で頷くと、あたしは歩道に立って、お父さんの車に手を振った。


早めに着いたつもりだったのに、受験会場の教室にはもう半分くらい席に人が着いてた。自分の受験番号を探して座る。


「周りなんて気にしちゃダメだよ、千帆。戦う相手は周囲じゃなくて自分なんだから。俺の写真でも持ってって見てた方が、よっぽどいいと思う」

これは、昨日のけいちゃんからのアドバイス。…けいちゃん、やっぱりナルだ。フツー、自ら言わないよ。

と、言いつつ、しっかり文化祭の時のけいちゃんの写真、持ってきてるあたしもアレだけど。


教科書に挟んだけいちゃんの写真をこっそり見てから、パタンと閉じて、瞳も閉じた。ゆっくり深呼吸。

センター試験の時とは全く違う気持ちで、あたしは開始のベルを聞いた。



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