先生≠彼【完】
♯8
センター試験が終わると、授業内容はますます受験を意識したものに変わる。そして2月に入ると、3年生は自由登校になった。あとは卒業式の練習を主に、数えるほどしか学校に行かない。
もう、あんな風に悔し泣きしたくないから、あたしも朝から机にかじりつく日々。いいんだもん、これが終わったら、目一杯遊ぶから。
学校には行かない、行けない――けいちゃんに会えない日々の中で、たったひとつのけいちゃんとの繋がりが、夜の電話。
『邪魔したくないから、千帆のキリのいい時に掛けていいよ。でも』
通話は5分以内にしようね。ふたりで決めた小さな繋がり。その貴重な時間の中で、あたしは素朴な疑問をけいちゃんにぶつけてみた。
「でも、自由登校の間も、けいちゃん達先生は学校にいるんだよね? 何してんの?」
「何してんの?って…」
けいちゃんは、ちょっと呆れたような声色になってから、一気に話す。
「俺、2年の授業も持ってるし、出席日数足りてない奴のための補講もやってるし、あと来年入学してくる生徒の入試の事務的なこととか色々…やること沢山あるんだよ」
けいちゃんにしてみれば、愚問だったらしい。
「ふーん。そっか、そうだよね。――あたしがいないと寂しい?」
「…勉強したら? 千帆」
「寂しい?」
質問を重ねて、あたしは黙り込む。けいちゃんも黙ったまんま。ちっちっちっちっ。キッチンタイマーで計ってる制限時間の5分が、迫る。
あと15秒。言ってくれそうもないなあ。つまんないの。諦めかけた時だった。
「さみし…」
ピピピピピピピ。けいちゃんの声を思いっきり妨げて、鶏の形のタイマーが、終了の合図を告げる。
「けいちゃん聞こえなかった〜。ワンモアプリーズっ」
「だーめ。タイムアウト」
「気になって勉強に集中出来ないです、どうしましょう、先生」
「はいはい、それでまた本試験ダメダメでも俺は慰めないよ。困るのは誰かよく考えな」
けいちゃんのけーち。受験生の彼氏なんだから、もっとこう心がほっこりするようなこと、言ってくれてもいいのに。
「はーい」
むくれた返事をして、あたしは通話を切ろうとする。画面をタップしかけた瞬間だった。
「寂しいなんて思ってないよ。だって、春からは一緒だろ?」
「……」
「だから、絶対受かれよ」
甘さと厳しさ。飴と鞭。けいちゃんは使い分けながら、あたしをうまくその気にさせる。うん、頑張ろ。
カレンダーに思い切り赤く丸がついてる本命の試験は、3日後に迫ってた。
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