先生≠彼【完】
♯4
白い封筒の中には、あたしの知らない神社の御守が入ってた。薄い桜色に金糸で学業成就って書いてある。
「うちの地元のなんだ。高校受験も大学受験も、俺ここにお参りしてうまく行ったから」
年賀状の方は、大きな写真に一言だけ。今年もよろしく。って、ありきたりなメッセージ。
「これ、けいちゃんの家族?」
初詣に行った時かな。鳥居の前で5人での集合写真。
「うん、そう。これが親父で、こっちがお袋」
中央に立った、にこりともしないメガネの男の人と、逆に顔を思い切り崩して笑ってる女の人。この人たちがけいちゃんのお父さんとお母さん。けいちゃんは、お母さん似なのかな。笑った顔が、何処となく似てる。
「この人が電話で喋ったお姉さん?」
あたしはけいちゃんの隣に立ってる綺麗な女の人を指さした。けいちゃんが女装したら、こんな感じかもしれない。ひと目で姉弟ってわかるくらい、よく似てる。
この顔で、あのサバケた感じなんだ…。うわ、コワイけど、会ってみたい。
「当たり。聡子。口やかましくておせっかいな姉。で、こっちが兄の亮士。兄貴は逆に、無口だし、存在感薄いけど」
けいちゃんと聡子さんとは反対側に、直立不動で立ってるお兄さん。こっちはお父さんそっくり。
家族の肖像。たった一枚の写真で、もっとけいちゃんのことを知ったみたいで、嬉しくなる。
初詣行く前のけいちゃんに、あたし刺々しい態度取っちゃったのに、御守買ってくれて、あたし宛の年賀状用の写真も撮ってきてくれたのかな。
「ありがと…あと、ごめんなさい」
「え? なにが?」
「電話で…嫌な態度取っちゃったから」
「ああ。シスコン呼ばわりね」
あんなにロレツ回ってなかったのに、酔ってる間のことも、けいちゃんはしっかり覚えてたらしい。しかも、たったひとつの単語、ずばっと言ってくるあたり、根に持ってそう。
「う…だから、ごめんなさい」
「まあ、それだけ千帆が勉強頑張って煮詰まってたんだって、わかってたから、別に気にしてないよ」
「それもあるけど、けいちゃんが…」
「俺が何?」
「けいちゃんに会えないから、おかしくなっちゃうんだもん…。あたしばっかり寂しいみたいで、悔しかった」
声が聞けたら、会いたくなって。姿が見れたら、話したくなって。話してたら、触れたくなる。触れたら…際限ない我儘な、恋心。
「おいで、急速充電してやっから」
あたし、スマホじゃない。でも、目の前でおっきく広げられた腕は、逆らえない誘惑に満ちてて、吸い込まれるようにけいちゃんのコートの中に飛び込んだ。
けいちゃんの温もり。けいちゃんの匂い。全部が懐かしくて、心地いい。
「あったかい…」
「俺も、寂しかったよ、千帆」
「ホント?」
「お前さあ…俺の気持ち、見くびり過ぎだから」
俺の方が、きっとずっと好きだと思うよ。
うそだ、あたしの方が好きだもん。反論したい台詞をしゃあしゃあと言ってから、けいちゃんはあたしの口を唇で塞ぐ。急速充電らしく、いきなりけいちゃんの舌が入ってきて、強く舌先を吸われた。
「…っ、けい、ちゃ…ん、好き…」
この次、いつこんな風にけいちゃんに触れられるかわかんないから、あたしも必死にけいちゃんに応えた。
たった5分のエネルギーチャージ。あたしとけいちゃんの新年は、こんな風に始まった――。
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