先生≠彼【完】
♯3
元旦は家族で鎌倉に初詣行って、2日は大学駅伝と我が家のお正月は決まってる。
けいちゃん、今日帰って来るんだっけ。
テレビで、箱根に辿り着いたランナーの様子を見て、そんなことを思い出した。
夜は真面目に勉強しようと机に向かってたのに、数学の文章問題にけつまずいて、考えてる間にいつの間にか、寝ちゃってたみたい。
カチャッ、と外で物音がして目が覚めた。多分、ポストに誰かがなにかを入れた音だ。
…新聞配達? そう思って時計を見ると、まだ1時になる前。こんな夜中に郵便局なわけもないし。
まさか!?と思って、あたしはベッドの奥のカーテンと窓を開ける。家の脇に止めたモスグリーンの車に、けいちゃんがちょうど乗り込むところだった。
「けいちゃん!」
窓から身を乗り出して叫ぶと、けいちゃんが首を真上に傾けて、にっこりと笑った。
「起きてたんだ。偉いね、千帆」
いーえ。寝こけてました。でも、そんな不都合なこと、今言う必要ない。
年が明けて初めてけいちゃんと、こんなドラマチックに会えるなんて。
大好きな映画みたい。
「待ってて、けいちゃん」
あたしはコートを羽織って、焦りまくって階下に降りる。あ、やばい。
しんとなった家で耳を澄ませても、他の物音はしない。良かった、お父さんもお母さんも起きてない。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、ごめんなさい。お父さん、お母さん。
心の中で謝りながら、そうっと玄関の戸を開けて、家を出たら、車のボンネットに浅く腰かけて、けいちゃんが待っててくれた。
会えるなんて思ってなかったから、ドキドキして、言葉が見つからないあたしに。
「明けましておめでとう」
けいちゃんは、呑気に言う。あー、なんか拍子抜けする。でも、けいちゃんらしくて、笑っちゃう。
「おめ、でとうゴザイマス。帰ってきてたんだね」
「まだ帰宅途中。年賀状と御守り、千帆の家のポストに入れて帰ろうと思ってたんだ。まさか出てくると思わなかった」
さっきポストに入れたそれは、いつのにかけいちゃんの手に戻ってて、けいちゃんは直接あたしの手に葉書と白い封筒を持たせた。
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