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先生≠彼【完】
♯9



出来上がってる感じのお父さんを置いて、けいちゃんと出かけることにした。歩いても行けるけど、って聞くと。


「いや車で行くよ。見られても嫌だし」
「じゃあ、これボロ屋対策グッズ」

スリッパと軍手とマスクの入った紙袋を渡すと、けいちゃんは「万全だね」って、くすくす笑った。


車で5分も走ればついちゃった、木造の家。


「ガレージあるんだね」

枯れ葉がいっぱい落ちてるシャッターつきの車庫の中に、けいちゃんは愛車を入れた。一旦敷地の外に出てふたりで建物を見上げた。ぐるりと住宅を囲む白壁、青い瓦屋根、錆びついた門扉。


「昭和だねえ…」
「昭和でしょ?」

昔お父さんが住んでた頃からは、流石に建て替えはしてるはずだけど、それだって築20年はくだらないハズ。


「とりあえず、中入ってみよっか」
「うん」

予めお母さんが手入れしておいたのか、思った程埃っぽくなかった。けいちゃんが、あんまりくしゃみしてなかったから、それは確か。ただ、長らくひと気がなかったせいか、家の中がめっちゃ寒い。ぶっちゃけ外と変わんない。


「さむっ」

とりあえず、電気をつけて、エアコンを動かしてみる。うぃぃぃんと、爆音を立ててから、温風なのか冷風なのか微妙な風が、吹き出し口から板張りのダイニングに流れ始めた。


「ふーん」


と、けいちゃんは好奇心たっぷりに、水道の水を出してみたり、キッチンの窓を開けてみたりしてる。


「今どき、システムキッチンとかじゃないんだよ? あと、あたしキッチンは対面カウンター式がいい」

こんなボロボロじゃ嫌だとばかりに、あたしはけいちゃんに言う。


1階は廊下の脇からキッチンダイニング。奥にちょっと大きめの和室、いちばん奥にもうひとつちょっと小さめの和室になってる。おばあちゃんやおじいちゃんが住んでた頃は、しょちゅう行き来してたけど、あたしはここに入るのは、1年ぶりくらいだ。

その時にはあったはずの家具も、おじいちゃんやおばあちゃんの遺品も片付けられてて、がらんどうになった室内は妙に広々と感じた。


2階は洋室が3つ。いちばん大きな主寝室にベランダがついてる。


「結構広いね、ここなら余裕でキングサイズのベッド置けるよ、千帆」
「そ、そんなに大きいのいらないよ」
「俺とくっついて寝たいから? えっちだなあ、千帆」
「そーゆー意味じゃないもん…っ。何なら、寝室別々でもいーしっ」

嫌な言い方をして、あたしはその部屋を出ようとする。でも。


「ちーほ」

けいちゃんはあたしの二の腕を掴むと、そのまま自分の胸元に引き寄せて、あたしを背中から抱きしめた。



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