先生≠彼【完】
♯6
つい4時間程前に、教室から姿を消したけいちゃんが、あたしの目の前に立ってた。
「け、いちゃん…」
半信半疑で呼んでみたけど、まだ信じられない。何、これ? 白昼夢? それとも3D映像? な〜んて思って、咄嗟に後ろ振り返ってみたけど、もちろん何もない。
「こんばんは、千帆」
あたしの動揺っぷりにけいちゃんは、にこにこ笑いながら言う。
「ほ、本物?」
「本物だよ」
と、上から降りてきて、あたしの頭を撫でた手のひらは、いつものけいちゃんのと同じ感触だった。
「慧史くん、いらっしゃい」
「お邪魔します」
キッチンから出てきたお母さんは当たり前みたいに、けいちゃんを出迎えてる。じゃあ、お母さんの言ってたお客さまって、けいちゃんってことだよね。
何で、どうして、いつのまに?
混乱してるあたしの横で、けいちゃんはスリッパに履き替えて、お母さんに「これ安物のワインですけど」なんて、フルボトルのワインを渡してる。
「あら、やだ嬉しい。私とお父さんが結婚した年のね」
そして、嬉しそうに受け取るお母さん。なんか誰と誰が恋人同士なんだっけ?って前提から疑いたくなる事態だ。
「お母さんばっかりずるい」
拗ねるとけいちゃんが「わかってるよ」としたり顔で、もうひとつの紙袋をあたしに渡す。
「千帆はこれね。ノンアルコールのカクテル持ってきたから」
めちゃくちゃ子ども扱いじゃん。ズレまくってるけいちゃんの気遣いに、あたしのイライラは最高潮。
「そうじゃなくてっ。何でけいちゃんがここ…」
「お母さんがお呼びしたのよ。日頃お世話になってるし、ふたりきりで会っちゃだめ、って言ったのもお母さんだから。武士の情け、ってやつよ」
お母さんはしれっと答えて、キッチンに戻っていく。意味がわかんない。あたしはお母さんの背中と、けいちゃんの横顔を交互に見た。
けいちゃんと過ごせるクリスマスは嬉しい。でも、あたしだけ仲間外れだった感じが、悔しい。
「それならそれで、教えてくれたって…」
「クリスマスだからサプライズ、あった方がいいんじゃない?ってお母さんが言うから、内緒にしてた、ごめんね」
むくれるあたしをけいちゃんが宥める。
「…裏切り者ぉ」
「言葉悪いね、千帆」
いつの間にあんなにお母さんと仲良くなってるの? あれは相当、あたしの知らないとこで、電話とかメールのやりとりしてそう。そもそもけいちゃんが、うちの親の結婚イヤーを知ってるはずがないんだ。
「けいちゃん、もうあたしに隠してることないよね?」
あたしは牽制のつもりで言ったのに。
「あるよ」
けいちゃんは、いつも以上の甘ったるいスマイルで言い切った。
隠し事をこうも堂々と「ある」って言われたのは初めて。
「な、何?」
あたしが詰め寄ろうとしたところに、今度はお父さんが帰ってくる。お父さんの帰宅時刻もいつもより早い。
この間のお父さんのしかめ面を思いだして、あたしは焦る。でも、「こんばんは」って挨拶したけいちゃんに、お父さんも「いらっしゃい」なんて穏やかに返す。友好的な雰囲気は、この間の爆弾低気圧から一気に小春日和が訪れたみたい。
「お父さん、けいちゃん来てていいの?」
「いいって当たり前だろう…お前の婚約者なんだから」
お父さんが落とした爆弾に、あたしのパニックは最高潮に達した。
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?
今年ラスト、そして最大のサプライズだった。
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