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先生≠彼【完】
♯5



12月24日。今日はクリスマス・イブ。そして二学期の終業式。


でも、受験生のクリスマスは辛い。

せっかく彼氏いるのに、予定もなく。それどころか、明日から冬休みになって、こうやって自分の席からけいちゃんを見ることさえ出来なくなっちゃう…。しかも3学期になったら、3年生は自由登校ばっかりで、学校に来ることさえ少なくなるのに。

教壇のけいちゃんは、今ひとりひとりに成績表配ってる。

あたしはとっくに貰っちゃって、さっき中身をちら見したら、学年の全体順位が20番上がってた。

目標はとにかく志望校合格。模試も圏内に近づいてる。それは見失ってないけれど…プロポーズ騒動はどうなっちゃったのかなあ。

お父さんとけいちゃんが、ふたりで会ったことまでは聞いたんだけど…その結果はふたりとも、あたしに教えてくれない。「まだ交渉中」の一点張り。


その交渉の席にさえ、着かせてもらえないのは、あたしが受験生だから? 子どもだから?


今年最後のHRが終わって、けいちゃんはいつもと同じように真っ先に教室出て行っちゃう。帰り支度を始める気力もなくて、頬杖ついてたら。


「春日〜、暗いよ。どったの、なんか悪いもんでも食った?」

脳天気な酒井くんの声がした。


「悪い…って、失礼な、そんなわけないじゃん」
「これからみんなでカラオケでクリスマス会やるから、予定ないなら来るか?」

酒井くんは形式上別れたあとも、あたしに変わらず接してくれる。イチクラスメイトとして。


「予定…あるもん」

机の引き出しにけいちゃんへのクリスマスプレゼントが閉まってある。これを届けに行くくらいは…お母さん見逃してくれないか、帰ったら交渉するんだもん。

でも、肝心のけいちゃんの予定はどうなってるんだろ。昨日電話で話した時も、特に何も言ってなかった。クリスマスの『く』の字も出なかった。

けいちゃんにしてみれば、大したイベントじゃないのかなあ。…あたしは、初めて好きな人と過ごすクリスマスなのに。



家に帰ると、お母さんはすっごく張り切って、クリスマスディナーの準備してた。ローストチキンにかぼちゃのポタージュ、シーザーサラダにパエリア…。

毎年、クリスマスにはご馳走出てくるけど、今年の力の入り方は尋常じゃない…。


「どしたの、お母さん、このご馳走」

あたしは味見と称して、パエリアのホタテをつまみながら聞く。


「ふふふ、お母さん、張り切っちゃった。今日はお客さん来るの」
「お客さん? 珍しいね。お父さんの知り合い?」
「そんなとこ。だから、あなた早く着替えてきなさい。ジャージはあとで後悔するからね」
「はーい」

言われてあたしは、キャラクターのプリントトレーナーと赤いチエック地のミニのスカート、下に黒のスパッツを履いて、また階下に降りた。


ピンポーンと来客を告げるチャイムが鳴って、あたしはお母さんに促されて渋々ドアを開けに行く。廊下、寒いから出たくないのに。

「はーい」

と無愛想に出た、あたしはノブを掴んだまま、雪像みたいに固まった。



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