先生≠彼【完】
♯2
俺の家? 想定外の申し出だった。
あ〜、娘の彼氏の身辺調査としては、メチャクチャ妥当かもしんない。年の功を感じながら、俺はお父さんを駐車場まで案内した。
「堅実ないいクルマに乗ってるね」
助手席に乗り込んだお父さんは、まずそんなことを言った。俺の車は父が昔乗ってたのを俺が免許取得の時に譲ってもらったもの。もう10年以上も昔のタイプだし、歴代の彼女乗せても褒められたことはない。
寧ろ俺がこんなの乗ってるのかと、意外に思われることが多い地味な車だ。とは言え、愛車を褒められて悪い気はしない。
「ありがとうございます。もうかなり古いんですけどね」
言いながら俺は、エンジンを掛けた。走りだすとお父さんは無言になった。なんとなく俺からも話を振りづらくて、車内にはテンションの高いFヨコのDJの声と洋楽だけが鳴り響く。
合コンや就職活動の面接での、自分の魅せ方、だったらある程度わかる。合コンだったら、ある程度の軽さとノリの良さ、面接だったら、熱意とか知性とか。
けど。
娘の父親が、娘の結婚相手に求めるものって何なんだろ。
パートナーを一途に愛する誠実さ? 一生食うに困らないような経済力? ぶっちゃけ、見てくれの良さなんて、マイナスポイントかもしれない。
ハンドルを握りながら、無言のお父さんをちらちら見ても、何を考えてるかはさっぱりわからなかった。
「狭いんですけど」
と断ってから、部屋に招き入れた。1DKのアパートが一望出来る廊下に立って、室内をひと通り眺めてから、お父さんは差し出したクッションの上に座った。
「随分整理されてるね。ひとり暮らしの男の部屋はもっとカオスかと思っていたよ」
っていうそれさえも、褒め言葉なのかどうなのか。出したものはすぐに片付けて、毎日掃除機掛けてれば、そんなひどい状態にはならないと思うんだけど…確かに、大学の時に遊びに行ったことのある友人の部屋はカオスだった。俺に言わせりゃ、あんな状態の中で暮らすほうがよっぽど努力を要する。
「炊事も掃除も…ひと通りのことは出来ます」
「じゃあ、特にお嫁さんはいらないね」
うわ。意地悪。
「確かに、家事を行ってもらう家政婦的な役割だけを、妻に求めるのであれば、僕には必要ないでしょうね」
「じゃあなぜ…」
と、問いかけてお父さんは言葉を切った。
「いや、いいや。まずは事実関係を確認したいんだ。君には聞きたいことが山程ある」
…山ほど、っすか。お父さんに会いたいと言ったのはこっちなのに、気分はまるで取り調べ室に連行される参考人気分。就職の際の面接の時よりも、新任の挨拶で講堂の壇上に立った時よりも、緊張した。
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