先生≠彼【完】
#5
嘘を吐くのも上手じゃないし、すぐに顔に出ちゃう。けいちゃんを好きな気持も、不安な気持ちも。
沖本さんがけいちゃんに近づけば、ムッとなるし、酒井くんに一緒の委員やろう、って言われただけで、けいちゃんに誤解されないか気になっちゃう。
こんなんで、卒業までごまかせるのか、不安で仕方ない。バレたら、失うものが大きいのはけいちゃんの方なのに。
「俺も、戸惑ってばっかりだよ、春日」
「先生、大人なのに?」
くくっと、けいちゃんが肩を揺らして笑う。
「大人って…。この間まで学生だぜ、俺。買いかぶり過ぎだよ、春日。見たくなかったこと見ちゃって、もやもや〜っとしたり、自分の思い通りに行動出来なくてイライラしたり…毎日、そんなことの繰り返し」
見たくなかったことって…さっきの酒井くんに腕掴まれての挙手とか? って思うのは、あたしの自惚れだろうか。
でも。
あたしの目にはけいちゃんは、先生としてちゃんとやってるように見えたし、あたしのことも公私分けてるように見えたから。
あたしと同じように『戸惑ってる』って言葉に、びっくりして安心する。
「春日」
あたしの名前を読んでから、けいちゃんは自分の前のキーボードを叩く。図書の在庫を調べる検索画面のワードに書かれてたのは、秘密のメッセージ。
――日曜日、うちに来る?
あたしは咄嗟に背後を見た。さっきの図書委員の子に見られたらどーすんの? ひとりで焦りまくる。
でも、その子はカウンターでテーブルに身を乗り出して、友達らしい子とおしゃべりしてる。まだ、新学期始まってすぐのせいか、図書館を訪れる生徒の数も少なくて、暇なんだろう。こっちに注目してる様子は全くない。
「春日、返事は?」
画面には、このワードで検索しますか?の下に、はい、いいえ、二択の返事。その画面を、けいちゃんは軽く指で弾いた。
「せ、せんせ…」
けいちゃん、大胆過ぎる。後ろの子の様子を伺いながら、あたしは震える手でマウスを握る。
けいちゃんち、…行ってもいいのかな。当たり前だけど、先生と生徒の関係になってからは、けいちゃんと学校の外で会ってない。
会いたかった。
こんなこそこそしたやりとりでなく、けいちゃんと話したいことがいっぱいある。
はい、のところにカーソルを動かして、クリックした。
もちろん、けいちゃんが入力した文字の本なんてないから。検索エラーの表示が出る。でも、けいちゃんは満足気にその画面を見て立ち上がる。
「またな、春日。これ手伝ってくれたお礼」
あたしの手元に、緑色の包のキャンディを3つ置いて、けいちゃんはカウンターを出た。あたしはその飴を制服のポケットにしまう。
帰り道、舐めてみたら、コーヒーの味だった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!