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先生≠彼【完】
♯7



「あ、えーと…。けいちゃんが風邪でダウンしちゃったみたいで…。けいちゃんひとり暮らしだし、イオン水とかゼリーとか…、口に出来そうなもの、持っていってあげたいな、って」
「慧史くんが?」
「す、すぐに戻って来るから! 行ってきちゃ、ダメ? けいちゃんのために何かしたいの」
「慧史くんが千帆に『来て』って頼んだの?」

あたしはぷるぷる首を横に振った。


「あなた、受験生なのに。慧史くんも、あなたが行っても喜ばないと思うけど」

お母さんはあたしの行為を咎めるように言う。


「…そう、かな」

でも、あたし修学旅行で熱出した時、けいちゃんの顔見ただけでほっとした。火照った額にけいちゃんがひんやりした手のひらを当ててくれるだけで、気持よくて、安心して微睡んだ。

傍にいてくれるだけで、安らげるし心が強くなれる――けいちゃんにとっても、あたしってそういう存在じゃ、ないのかな。けいちゃんが弱ってる時に駆けつけたいと願うのは、そうだって、確かめたいからかもしれない。


俯いたまま、あたしは抱えたゼリーや栄養ドリンクは離さない。キッチンのカウンター越しにあたしとお母さんは向かい合ってたけど、先に折れたのはお母さんの方だった。


「ホントにすぐ帰ってくるのね?」
「うん」
「待ってなさい、今雑炊の作り方、書いてあげる。もし、慧史くん食べられそうなら、作ってあげて」

根負けしたようなお母さんのセリフに頬が緩んだ。


「ありがとう」

レシピと材料と、その他もろもろ入れたら、保冷機能つきのバッグは満タンになった。自転車のかごに、バッグを入れて、けいちゃんちに向かった。


駐車場にけいちゃんの車があった。寝てるかな、と思って、合鍵を使って中に入る。

あれ? 玄関に漂ういつもと違う香りが気になった。違和感を覚えながらも、靴を脱いでいたら、部屋の中から出てきたのは、けいちゃんじゃなかった。


「やだ、こんなとこまで押しかけてきたの?」

長い睫毛に縁取られた目が、濃い口紅で輪郭を形どられた唇が、驚きに大きく開いて、あたしを小馬鹿にしたようなセリフが飛び出してくる。


それは、こっちのセリフだよ…。言いたい言葉を飲み込んで、あたしはじっと彼女を睨んだ。


けいちゃんのアパートに、何故かみつきさんが来ていた…。




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あきゅろす。
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