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先生≠彼【完】
♯5

「彼とはいつからだ」

客間に戻ると、お父さんがあたしにぶっきらぼうに聞いてくる。あたしは鼻を啜りながら、さっきまでけいちゃんが座ってた場所に座った。


「…今年の2月くらい」
「2月?」

お父さんが眉を上げる。


「新任の先生だ、って面談の時に言ってなかったか?」
「そうだよっ。だって、付き合ってた彼氏が担任の『先生』になっちゃったんだもん」

しかめ面してたお父さんが、またぽかんと口を開けた。「ばかな…」とか呆けた顔で呟いてる。


「そんな事情も聞かずに、けいちゃん追い返すなんてひどい。もう、お父さん、大っ嫌い」

あたしは子どもみたいに泣きじゃくりながら、お父さんの悪口を言う。


「千帆」

お母さんがあたしの肩を抱き寄せた。そのまま、あたしを誘導して、お母さんはあたしの部屋に入った。


「貴女は慧史くんのことになると、すぐ向きになるんだから。突然、そんな話聞かされたお父さんの気持ちもわかってあげて。ただでさえ、不器用な人なんだから」
「…だ、だって。じゃあ、けいちゃんは?」

平気な顔は装ってたけど、絶対傷ついた。傷つけた。けいちゃん、今何してるんだろ。


「お母さんも複雑よ。慧史くんは誠実だし、イケメンだし。千帆にしては、上出来の彼氏だもの。でも、お父さんのショックもわかるし。だからお母さんは中立。どっちの味方もしないから」
「え〜〜〜〜、何それぇ」

こういう時女親って、娘につくものじゃないのお?

ぷうと頬を膨らませると、お母さんはつんとあたしの頬をつつく。


「ほら、そんな顔しないの。また来ます、って言ったからには、慧史くんは何か考えあるんじゃないかしら」
「何かって?」
「さあ、お母さんにはわからないけど」

お母さんは楽しげにふふっと笑った。


「…お母さん、面白がってない?」
「自分の時を思い出しちゃったわ。お父さんもね、最初は反対されて大変だったんだから」
「えっ、そうなの?」
「そうよお。お父さん、実は前に結婚歴あったのね」
「あ、それはちょっと聞いたことある…」
「子どもも出来ないまま、すぐに別れちゃったみたいだし、お母さんとしてはそんなことあんまり気にしてなかったんだけど、その時お母さん19歳で。そんな小娘の連れてきた相手がバツイチ10も年上の営業職…まあ、うちの親としては弄ばれてるんじゃないか、的なことを当然心配して」
「そうなんだ」

初めて聞くお父さんとお母さんの馴れ初め話。あたしが生まれた時から(当たり前だけど)一緒にいるから、何の苦労も波乱もなく、ずっと一緒にいるもんだと思ってたけど、やっぱり結婚するまでには、いろいろあるんだな。


「最初に挨拶に来た時はお父さん、質問攻めにあって、結局『結婚』のけの字も言い出せないですごすご帰ったんだから、慧史くんの方が立派ね。きっと今頃お父さんも20年前のこと、思い出してるんじゃないかしら」
「……」
「いずれ貴女を手放さなきゃいけないのはわかってる。でもだから、最高のタイミングで最良の相手に…それを見極めるのが、親の最後の勤めなのよ。ね? 千帆」

お母さんはそう言って、あたしの肩に肩をぶつけてきた。

焦らなくっていい。お母さんが言いたいことはわかるんだけど、やっぱりやきもきしちゃう。

けいちゃんは、どう思ってるのかなあ。やっぱりやめた、なんて思ってないよね?






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