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先生≠彼【完】
♯1


次の日から、あたしは図書室で勉強することが多くなった。問題集とか参考書をどっさり持ち込んで。

メリットは家でやるより集中出来るのと、けいちゃんと同じ空間で頑張ってる、って自己満足。

たまに司書の先生が早く帰る日があって、そうするとけいちゃんが図書室の戸締まりをすることになる。

カリカリカリと一心不乱にシャーペン走らせて、キリのいいところで、ふっと顔上げたら、斜め前の座席にけいちゃんが座ってたことがあって、目線が合っただけでドキンってして、「頑張ってるね」って声を掛けられただけで、鼻の奥がつんとなった。

触れることは出来なくて。
会話だって、先生と生徒としてのそれを越えることはなくて。
まるで片想いをやり直してるみたい。


でも、それでも心が満たされて、がんばろうって思えるのは、けいちゃんが確かな約束をくれたから。


「気をつけて帰れよ」

そんなけいちゃんの言葉に、手を振って、すっかり暗くなった駅までの道をひとり歩く。

あたしと酒井くんの『円満な関係の解消』は、すぐにみんなの知るところとなったけど、意外とみんなあれこれ言って来たりはしなかった。ああそう、でオシマイ。受験間近で人のことなんてかまってる余裕ないんだろうな。助かるけど。


七海にだけは、本当のこと言った。みつきさんにバレたことも、けいちゃんと結婚の約束したことも。

順序も段階もぶっ飛ばし過ぎのあたしとけいちゃんに、七海はあきれ果てた顔をして、ふか〜く溜息をついた。


「凄いね、遠藤ちゃん。担任してる生徒にプロポーズとか…ロリもそこまで行くと、引くというより、尊敬の域だね」

相変わらずの毒舌だけど、七海なりにあたしのこともけいちゃんのことも心配してるのがわかるから、あたしは苦笑い。


「…けいちゃん、そこで七海から尊敬されたいとは思ってないような…」
「ちぃはそれでいいの? この先アレルギー因子持ちじゃないイケメン出てくるかもよ?」
「いーのっ。けいちゃんが、いいの。この先も、変わると思えないもん。じゃなきゃ、プロポーズ受けたりしないよ」
「ちぃって、ホント健気だよね」

と、何故かそこで七海にハグされてしまった。


そんな七海との会話を思い出しながら、歩く並木道の葉はすっかり落ちてしまった。もう、11月も終わり。この木々が、再び色づく頃、あたしは遠藤千帆になってるのかな。

なんか不思議。今まで桜が咲いてた樹に、まるで次の年には別の花が咲くような、自分が自分でなくなっちゃうみたい。でも、嫌な感じじゃなくて、まだ見ぬ期待にワクワクする感じ。


もちろん、簡単にはいかないの、わかってるけど…。





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あきゅろす。
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