先生≠彼【完】
#2
「モテるねえ。遠藤センセ」
羨ましそうな、からかうような呟きに、あたしは咄嗟にドアとは反対の方を振り返る。そしたら、短髪の男の子と目が合った。隣の席の酒井くんだ。
短い前髪の下の、日焼けした浅黒い肌。くっきりした男らしい目元と眉。確か、水泳部だっけ。けいちゃんとは、全く見た目のタイプが異なる。性格もさっぱりしてて、面倒見よくて、みんなに慕われるタイプみたい。けいちゃんの周りにいつも女の子がいるとしたら、彼の周りはいつも男子が集まってくる感じ。
「春日は興味ないの? 遠藤センセ」
「え…」
あたしは言葉に詰まる。いや、ないわけじゃない…ってか、彼氏だし。彼氏なんだけど、もちろん言えないし。こーゆー葛藤の一切合財を全部なぎ倒して、他の生徒やあたしの前で可愛い彼女がいて、ラブラブだ、と言い切ったけいちゃんを、あたしは妙に尊敬してしまった。
詰まった挙句に出てきた答えは、信じられないほどつまらないものだった。
「だ、だって先生だし」
「ああ…。つまり、望みのないものには、手を出さないタイプ?」
いや、そういうわけでもないんだけど。でも、ボロが出そうだから頷いておこ。
「うん」
「じゃ、俺と一緒だ」
酒井くんはそう言って、笑った。浅黒い肌から白い歯がにっと出る。栄養ドリンクのCMみたいだ。
なにが一緒なのかよくわかんなかったけど、つられてあたしも笑ってみた。
人間て大きい秘密持ってると、他のこともあんまり話せなくなるもんなんだなあ。全部がけいちゃんとの秘密に繋がりそうで、迂闊なことが言えなくなる。あたしの口がどんどん閉ざされていって。
…貝みたいになったら、けいちゃんのせいだ。
その日の午後の最後の授業はHRだった。席替えと委員会決め。席替えの方は、くじを引くだけだから、すぐに終わる。あたしは18番…って、いちばん後ろの席だ。
普通の生徒なら、喜ぶんだろうけど、泣けてきた。また、けいちゃんが遠くなる。移動は放課後ということで、すぐにクラス委員とか文化祭実行委員とかの選出に移る。
けいちゃんが黒板に丁寧な字で、クラスで決める役員を書いていく。
やりたくなーい、かったるい。教室全体に、そんな空気感を漂う。…だよねえ。全員に割り振られるわけじゃないし、やらなくてすむことなら、極力やりたくない。
「何かやる?」
小声で酒井くんに聞かれた。
「え、誰もいなかったら図書委員くらいなら…」
ラクだし、本は好きだし(けいちゃんが)
あたしのそれは、消極的な返事だったのに。
「図書? じゃ、一緒にやる?」
「へ? い、いいけど…」
あたしがぼんやりとした返事をした瞬間、あたしの制服の袖口を酒井くんはパッと掴んだ。そして自分の腕と共に高々とあげる。
「先生、酒井と春日、図書委員立候補しますっ」
う、うそぉぉぉ〜。
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