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先生≠彼【完】
#1

学校では「春日」「先生」と呼ぶこと
校内ではお互い触れない
交友関係には口を出さない
なるべく接点を持たない
付き合ってることは誰にも言わない


ふたりで決めた、けいちゃんとあたしが、付き合うルール。







けいちゃんはモテる。先生、っていう立場が余計に付加価値を高めてしまったのか。

授業が終わったあとは、教科書を手に、職員室に戻るけいちゃんを質問攻めにする女の子は後を絶たないし。

今も、教室の出入口でまってるし。けいちゃんの周りに、うちのクラスの女の子が2人。隣のクラスの女の子が1人。日本史は選択科目だから、うちのクラスは隣のクラスと合同授業だ。


「お前ら、いい加減にしろよ〜、続きはあとで職員室で聞くから」

次の授業を気にしてか、あたしの目を気にしてか、けいちゃんはそう言って彼女達を手で払う。


「え、じゃあ先生、これで最後最後」

なおもしつこく食い下がったのは、沖本綾乃ちゃん。隣のクラスの子だ。あたしより背が高くって、あたしより髪が長くて可愛い。ついでに、あたしより成績もいい。


「先生、彼女います?」

けいちゃんのシャツの裾をしっかり掴んで、彼女が聞く。英語の宿題やるフリして、彼女たちとけいちゃんの会話を、何気ない顔してしっかり聞いてたあたしまで、固まった。

なんて、答えるのかな、けいちゃん。


「お前、それ全然授業にかんけーないじゃん」

あたしの反応を窺うようにけいちゃんは、一瞬だけこっちを見て、あたしにも聞こえるようにか、声のトーンを少しあげて答えた。


「いるよ。超可愛くて、超ラブラブの彼女」
「……」

ほ、本人目の前にしてよく言えるな。

けいちゃんの何も考えてない軽薄さに呆れると同時に。

やばい、どうしよ。顔、にやけちゃう。英語の文字の羅列なんて、ちっとも頭に入っていかない。


「えー、そうなんだ」
「やっぱり、いるよねえ」

他のふたりの女の子は、ちょっと残念そうに、でも納得といった表情。けど、沖本さんだけは違った。さっきまでニコニしてたのに。


「そう…ですか」

自分で聞いたくせに、低い声で面白くなさそうに相槌を打つ。けいちゃんのシャツを掴んでた手は、するりと彼女の手から抜けた。


なんか…怖い、この子。


蚊帳の外で見てたあたしの視線を感じたのか、沖本さんはあたしの席の前の通る時に、きっとあたしを睨んで、教科書一式を持って、出て行った。




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