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先生≠彼【完】
#9

「せ、先生どうしたの…?」
「いやちょっと忘れ物…」

と、けいちゃんは腰を屈めて、教卓の中を覗きこむ。小ぶりの手帳を、けいちゃんはスーツの胸ポケットにしまいこんだ。


「あと、何となく千帆がここにいる気がして」

けいちゃんにしては、勘が冴えてる! でも、春日って呼んだり、千帆だったり、ブレブレだよ、けいちゃん。


「お前、俺の方全然見ないのな」

だって、見たくないんだもん。あたしの知らないけいちゃん。あたしの担任の遠藤先生なんて、あたしはまだ受け止められないでいる。


「教室ってさ、意外に狭いんだねえ」

けいちゃんは教卓に両手を広げて、室内全体を見回して言う。場所は違えど、過去2年、このレイアウトで授業を受けてきたあたしにはピンと来ない。


「そ、そかな…」
「セーラー服の千帆、初めて見たから、ちょっと興奮した」
「な…ばかっ」
「でも、千帆はずっと泣きそうな顔して俯いてて。そういうのも、全部こっから丸見えだからね」

見てない素振りで、しっかりけいちゃんは見てたらしい。なんだよお、だったらそれとなく、匂わせるくらいしてよお。けいちゃんのくせに。


「千帆の顔見て思ったんだ。やっぱり俺と千帆が別れるのは違う気がする…」

教卓と、机。立ってるけいちゃんと、席についてるあたし。まるで授業をしてるみたいな構図で、けいちゃんはそんなことを言った。


「別れたってさ、毎日顔合わせるんだよ? 俺にとっては千帆は、特別だよ。何もなかったようになんて、過ごせない」
「……」

それは、あたしも思った。彼と彼女、っていう今の関係を解消することは出来る。でも。

あたしがけいちゃんを大好きなこの気持は、きっと無くならないし、誰にも奪うこと出来ない。


「過去は変えられない。俺と千帆はもう、出会っちゃったんだもん。先生と生徒としてでなく、フツーの男と女として。俺達の出会い、全部なかったことにするのと、全校生徒に嘘つくの、どっち選んだって苦しいよ。だったら、俺は千帆といるための努力したい」

千帆はどっちの苦しさ選ぶ?


ぽたりと、あたしの机に涙が一滴落ちる。何でこんなことになっちゃったんだろ。あたしたちはフツーの彼と彼女だっただけなのに。


「あたしもけいちゃんといたい…」


窓際の教室のカーテンが揺れてる。時々、廊下を歩く他のクラスの生徒の足音が響いて、グラウンドからは、運動部の掛け声。いつだってざわついてて、埃っぽくて、いろんな人がいて、いろんな感情が渦巻いてる。

それが、学校、っていう場所。

その中で、あたしたちは間違ってるかもしれない選択をしようとしてる。


「たかが、365日、全校生徒と先生の目、欺けばいいんだよ、千帆」
「たかが…って」
「大丈夫。なんとかなるって」


けいちゃんは、相変わらず脳天気に言って、にっこり笑う。…教師の自覚あるのかな、この人。


でも、そんな楽天家のけいちゃんが、好き。



あたしたちの恋は絶対秘密。誰にも言えない思いを守ろうと、あたしとけいちゃんは、この日決めた――。





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