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先生≠彼【完】
♯10



SIDE Keishi



「けいちゃん、あのね」

言いにくそうに千帆は綺麗な口紅を塗った唇を開いた。


「あたし、もうけいちゃんといられない…」

さぞや俺は情けない顔したんだろう。俺の向かいの千帆の顔が切なげに歪んだ。


「何で?」

問い詰めると伏せた目蓋は、オレンジのグラデーションに彩られてる。大人っぽく見えたのはメイクのせいらしい。素顔の千帆の方が可愛いのに。


「好きな人が出来たの。けいちゃんより年下だけど、けいちゃんより大人だよ。あたし、彼と一緒に行くことにした」

立ち上がった千帆を俺は縋るように見つめた。けれど、千帆は俺が僅かに見出そうとした可能性を断ち切るように言う。


「けいちゃんだって、あたしのこと本当に好きだったわけじゃないでしょ?」

くるりと向けられた背中。限りなくデジャブを覚える台詞に愕然となった。ちょっと待て。誰がそんな。反論したいことは山ほどあるのに、なかなか言葉が出てこない。

どうしたら彼女の心を取り戻せるのか。有効な手段も言葉も見つけられないまま。


「――行くな!」

咄嗟に腕を掴むと、千帆のピンクの唇の両端が吊り上がり、何かを言おうとゆっくりと開いた。





「ひゃあ…っ」

それまで俺が見てた光景と全く違う雰囲気、さっきまでの緊張感の全くない千帆に混乱した。


「あ…」

華奢なモロ出しの肩を見て、さっきまで見てたのが夢だってことに気がついた。――慧史だって、あたしのこと本当に好きだったわけじゃないでしょ?

語り手を変えて蘇った台詞は、昨日みつきなんかに会っちまったせいか。どんだけトラウマなんだよ、俺。

恋情は残ってないのに、心の片隅にはまだあるみつきとの記憶。


頭を抱えた俺を千帆は不安そうに見てた。やばいそんな顔させたくないのに。


「ごめん、突然大きな声出して」
「ううん」
「何処行こうとしたの? 千帆」

俺が聞くと、千帆は顔を赤らめて、イタズラが見つかった子どもみたいに口ごもった。何かと思えば、俺の寝顔を撮ろうとしたらしい。ああ、なんかもう嫌な夢なんて吹き飛ばす可愛さなんだけど。俺の寝顔なんて。


「そのうち珍しくもなんともなくなると思うけど」


昨夜の情事のあとの名残のまま、服も着てない千帆と、ツーショットの写真を撮った。

時計を見ると、8時を過ぎたところだった。


「でもまだチェックアウトまで間があるけど、どうする? 千帆」

千帆の身体の脇に手をついて、千帆を追い詰めながら聞く。俺の意図を明確に把握したのかしてないのか、千帆は困ったように視線を宙に泳がせる。


隙を見せたその唇に俺は素早くくちづけた。






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