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先生≠彼【完】
♯9


バタバタ、ドタドタ…足音がうるさい。


お母さん、なんでこんな何回も行ったり来たりするの? と過ぎ去ってはまた響きだす足音を煩わしく思ってから、覚醒する。


ここ、自分ちじゃなかったっけ。


はっと横を見ると、けいちゃんの寝顔があった。うわうわうわ、けいちゃんの寝顔。一晩中この横で寝こけてたにも関わらず、貴重な瞬間に立ち会ってることに気がついて、スマホを取ってこようと、けいちゃんの腕の中から抜けだそうとする。

その瞬間。


「――行くな!」

けいちゃんに突然腕を掴まれた。


「ひゃあ…っ」

突然けいちゃんの低い声で言われて、つい悲鳴みたいな声が出た。


「あ…」

けいちゃんは夢と現の狭間だったのか、あたしの顔を見て、自分まで驚いた顔してた。夢でも見てたのかな。


「ごめん、突然大きな声出して」
「ううん」
「何処行こうとしたの? 千帆」
「け、けいちゃんの寝顔…」

って、もう起きてるし。ああ、シャッターチャンス…。


「俺の寝顔がどうかした?」
「い、いえ。お、おはようございます」
「おはよ、寝れた?」
「はい、ぐっすり」

あたしの受け答えに、けいちゃんはくすくす笑い出す。


「千帆ってさ、嘘ついたり後ろめたいことあると、敬語になるよね」
「…そ、そんなことないです…よっ」
「そう? で、何しようとしてたの?」
「けいちゃんの寝顔、写メに収めようかと…」
「撮ってどうするの」
「あたしの癒やしにしようかと…」
「そのうち珍しくもなんともなくなると思うけど」

さらっと凄いこと言い放って、けいちゃんは自分のスマホを手にしてから、あたしの肩を抱き寄せた。目一杯腕を伸ばして、高く掲げられたスマホは、嫌な予感しかしない。


「どうせなら一緒に撮ろうよ。千帆、スマイル」

えっ、マジで? けいちゃん、あたし、全裸のまま…。慌てて、シーツで胸元隠して、けいちゃんの腕の先を見る。

カシャ。シャッター音がして、けいちゃんは満足気に画面を覗きこんだ。


「初めての朝記念。画像送る?」
「要らないっ」

誰かに見つかったらどーすんの、それ。


何かが変わるのかな、とちょっと期待と不安だったのに、結局あたしたちはあんまり変化なく、ばかっぷる全開な朝を迎えてた。


「朝食どうしよっか」
「バイキングあったよ?」
「えー、俺ビュッフェスタイル嫌い。駅前にカフェあったよな、そっちにしない?」
「いいよ」
「でもまだチェックアウトまで間があるけど、どうする? 千帆」

ベッドに座ったあたしの両脇に手をついて、あたしににじり寄りながら、けいちゃんが言う。


「…け、いちゃん、何…」

何する、とあたしが聞き終わるより早く、けいちゃんの唇はあたしの唇を捉えてた。





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あきゅろす。
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