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気まぐれ短編集
彼の事情。
「俺とセフレにならないか?」

そう言われたのが数ヶ月前。

俺は、周りから遊び人だと認められるくらい夜遊びが激しく、クラブ行って、ナンパしてなんてことは日常茶飯事で、自宅なんてあってないようなものだった。
そんな俺でも男との経験はなく、やり方くらいはわかるものの自分から進んでやりたいとは思えなかった。

だから、遊び人とは到底思えない彼からの言葉の真意がわからず、ただの興味本位から言った冗談だろうと軽い気持ちから了承の返事をした。

「何でもする。何されても文句言わないし、俺からは望んだりしないか。好きなようにしてくれ」

そう言われてから初めて真剣に言われていたのだと気付いても、今更断るなんて格好悪いことが出来る訳もなく、仕方なしにその日から彼とはセフレという関係となった。


しかし、実際男2人でホテルに入るというのも気が引けたし、相手の家に行ってなんて、恋人のようで嫌だった。
だから、結局そこら辺に建ってた、ムードもへったくれもない廃屋で俺は初めて男を抱いた。

彼は本当に何でもしてくれたし、俺が言わない限り一切自分からは求めては来なかった。

俺の言うままに動き、ねだり、笑う。
その行為に今までにないくらいの快感を味わい、俺の夜遊びはほとんどなくなっていった。

そしてそれには次第に、何だか寂しいような苛立たしいような、今まで感じたことのない気持ちも混ざっていき、晴れない気持ちを八つ当たりのようにぶつけ、いつも彼には酷いくらい激しい行為を求め気絶させてしまう。

その罪悪感もあり、俺は彼が起きるまでいつも近くの部屋から見守っている。
毎回の行為でだいたい起きる時間がわかってからは、ギリギリまでそばで寝顔を見つめていた。

なぜだか、その寝顔を見ると落ち着くのだ。



ある日、いつものように彼を見ているとふらふらと立ち上がり、雨が降る窓を見つめていた。

脆く儚く見えるその姿を見て、今すぐ行って抱きしめてやりたいと思ってしまった。

そして、それを考えるだけで胸が高鳴っていく。
この気持ちがなにかを知らせるように…。

だが、それを認めるにはたくさんのリスクがあるわけで…。

俺は“次は24日19時にいつもの廃屋で”とだけ打ったメールをすぐ近にいる彼に送って、また目を向ける。

彼はメールには気付いていない。
代わりに、今度は窓から上半身を乗り出して頭から雨を被っていた。

「馬っ鹿やろう!!」

チッと舌打ちし、小さく呟いてから飛び出そうとしてその足を止める。

泣いている?
なぜ泣いているのかはわからない。
ただ、その涙を雨が拭って落ちていく…。

「なん…なんだよ……。」


なぜ、セフレになりたいと言ってきたのか。
なぜ、俺だったのか。

わからないことばかりで。
もやもやした気持ちが渦巻いていく。

ただひとつわかるのが、もう泣かせたくないと思うだけ。

そんな自分に苦笑を浮かべ、また携帯を手にとってメールを打つ。

“やっぱり場所は近くのファミレスに変更。話がある。”

心に小さな決意を秘めて…。

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