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気まぐれ短編集
本と僕と彼の居場所(下)
次の日も、その次の日も、いじめられては図書室に向かい、なぜかそこにはいつも龍ヶ崎がいて、彼等は喜一に手が出せないまま逃げて行く。
そのたび、お礼としていろんな所にキスされた。
それでも喜一は図書室に行くのだった。



「あ…あの。いつも…ありがとうございます。」
「…なぜ此処に来る。」
「えっ…と。」

喜一も自分で疑問に思う。
確かに、自分に助けてくれる友はいないし、教師は役にたたない。
だが、逃げようと思えば隠れるところなどどこにでもある。
毎回同性である男に、助けてもらったとはいえ、キスされるという屈辱を受けるくらいなら他に隠れた方がよっぽど利口だろう。
そして考えた結果、結局答えが出ることはなく、

「な…なんででしょう?」

と、龍ヶ崎に向かってヘラッと笑い聞き返した。
すると、龍ヶ崎が
「……やっと笑った。」
と喜一に聞こえない声でボソッと言う。
喜一は龍ヶ崎が何か言ったように見えたため「何か言いました?」と言おうと思った時。

「んっ…。」

その言葉は龍ヶ崎からのキスによって阻まれた。
しかも、いつもとは違った深い深いキス…。
いきなりの事に思わず龍ヶ崎を突き飛ばす…と言っても喜一の力ではほんの少し体制を崩させるだけの効果しかなかったが。

「なに…するんですかっ。」

喜一が顔を真っ赤にして言う。
そんな喜一に龍ヶ崎は、
「お前…。俺と付き合わないか?」

なんて、喜一の顔を更に赤くするような事を言った。
突然言われた喜一は先ほどの事もあったためパニックで、
「お…男なのに付き合うなんて出来る訳ないじゃないですかっ!何を言ってるんですか!非常識ですか!だいたい男同士って何も出来ないし!」
となんだかよくわからないことまで言う。

その言葉に龍ヶ崎は「なら試してみるか?」と喜一に乗っかってきた。
そして耳元で囁く。
「もし俺と付き合うなら、もうあいつらにはいじめられないようにしてやる。」

その言葉に喜一は龍ヶ崎の頬をパチンッと叩いた。

龍ヶ崎は喜一に叩かれた意味がわからない。
そして、喜一もまたなぜ龍ヶ崎を叩いたのか、わからない。
ただ、なぜか悔しかった。
いじめられないために付き合うと思った途端、胸の奥がチリチリした。
涙が溢れて止まらない。
そして喜一は、龍ヶ崎を押しのけて立ち上がると龍ヶ崎に向かって言う。

「僕は…僕はもう絶対あなたに助けてもらいませんっ!今までご迷惑をお掛けしましたっ!さようならっ!」

そしてその場を走り去った。




その後も龍ヶ崎を除く5人からのいじめが止まる事はなかった。
だが、図書室に逃げることはなくなった。
助けは求めないと決めたから。

だが…。

『早く脱げよ。』
「やっ…やめてっ…」
『脱げないなら手伝おうかぁ?』
「い…いやっ」
「その辺にしとけ。」

龍ヶ崎は俺がヤられそうになると必ず現れる。

『龍さん…またいいとこで…』
「お前な。するなら彼女としろ」
『最近ヤらせてくれないんすよー…』
「なら我慢すればいい。」
『龍さーん…』
「とにかくやめろ。やるなら俺を倒してからにしろ。」
『いや。無理ッスから』

そんな会話をしながら彼等は喜一から遠ざかっていく。




ピンチにはいつも助けてくれる人。
唯一自分に踏み込んで来た人。
キスしても嫌じゃない人。
じゃあ、なんであの時龍ヶ崎を叩いてしまったのか。
未だに答えは見つかっていない。
でも、いつかこの答えが見つかったら、また図書室に行って龍ヶ崎とゆっくり話そう。



だから…

「好きだよ。」

そう伝える日は、それまで残しておいてもいいよね…?


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あきゅろす。
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