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気まぐれ短編集
叶わぬ恋…。
※死ネタ注意




「冷耶(れいや)様。晄(あきら)様がお見舞いに…。」

「通してくれ。」

「かしこまりました。晄様。どうぞ此方へ。」

使用人が呼ぶとドアの隙間から15歳にしては幼い顔の可愛らしい顔が此方を覗く。

「晄…。」

冷耶が名前を呼ぶとその可愛らしい顔が笑顔になり、ベッドへ駆け寄ってくる。

「冷耶!」

そして、そのまま飛びついて晄は冷耶を強く抱きしめた。

「晄…ごめんね…。」

冷耶はいつも晄が来る度に謝る。
そして、晄の唇へ軽く口付ける。
これは冷耶の決まりのようなものだ。

「謝るなら早く治せよな!」

晄はいつも頬を少し赤く染めて笑顔で言う。
これが叶わないと知ったら…
晄はどれだけ絶望するのだろうか…。



冷耶は財閥の跡取りとして育てられたが、病弱で年の近い友達もいなかった。

そんな時、養子として貰われてきたのが晄だった。
初めは自分に何かあった時の代わりとして来た晄を冷耶はひどく憎んでいた。

しかし、晄は自分の知らない人ばかりの家に急に住めと言われ、寂しさと悲しさで泣いてるところを冷耶は見てしまった。

その時、晄への気持ちは憎しみから愛おしみへと変わった。
晄は冷耶を兄のように慕い、冷耶は晄を大切な存在として常にそばに置いた。
晄と冷耶は次第に互いを愛し始めた…。

しかし、そんな幸せの時間は長くは続かなかった。

冷耶は不治の病にかかったのだ。
簡単に移るものではない。
しかし、かかったものは2年はもたないとされていた。
そしてそれから…1年と7ヶ月が過ぎようとしていた。
冷耶はベッドから動くことも出来ず、痩せ細ってしまった。

「晄には教えるな。」

冷耶は自分が不治であることを隠すように使用人にも言い聞かせていた。

晄は何も知らない。
必ず治ると信じて、毎日見舞いに来る。
そんな晄への愛と嘘への謝罪を込めて…。
今日も晄の唇に口付けを…。


しかし、それも今日で終わりにしよう。
冷耶の死期は近い。
自分は自分が一番よくわかっている。
あと数日…ってところだろう。
冷耶はいつものように見舞いにくる晄に今日は軽くではない口付けをする。

「んっ…ふぁっ……。」

初めての深い口付けに、晄は苦しさと恥ずかしさでいつも以上に顔を赤く染める。
そしてクチュっという音と一緒に冷耶の唇は離れていく。
晄は唇が離れてからも息が上手く出来ずに、軽く息を上げている。
そんな晄を見て、冷耶はとても寂しい笑顔を向けてこう告げる。

「僕はこれから晄の知らないずっと遠くに暮らす事になった。だから…もう晄に会うことが出来ないんだ。」

冷耶の最後の優しい嘘。
晄を少しでも傷つけない方法。

「嫌だ!俺も行く!」

晄はさっきまで赤かった顔をみるみるうちに青ざめさせ、必死に冷耶にしがみつく。
しかし、冷耶は晄の耳元に優しくそっと囁く。

「僕は晄が大好きだ…。愛してる。でも俺は行かなきゃいけない。晄が守らないで、誰がこの家を守るんだい?」

冷耶は晄に微笑む。
しかし、晄は聞かない。

「家なんかより冷耶のが大切なんだ!それに俺は養子なんだから冷耶じゃなく俺を…!」

そんな晄に冷耶は軽く口付け、晄を落ち着かせる。

「ならもし、僕が戻って来て家がなかったらどうしろと?」

そう言って冷耶はクスクスと笑った。
晄は
「必ず戻ってくると約束するなら…」
と渋々冷耶が離れることを承諾した。

(俺は最後まで晄に嘘を突き続けてしまったな…)

次の日、冷耶はこの世を去った。
晄に知られたくないと、冷耶たっての希望だったため葬儀は密かに行われた。


晄は何も知らない。
否…知らないフリをする。
もう戻らない冷耶のことは薄々感づいていた。
痩せ細り動かなくなる冷耶を、一番近くで見ていたから…。
冷耶が大好きだ。
愛している。
だから…冷耶が望むように…。

頬にはいくつもの濡れた筋が出来る。

“俺は何も知らない。”
そう…
それが冷耶の最後の希望だから…。

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あきゅろす。
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