3 「どうして?」 僕の目の前に立って、俯いている京子。 キラキラした瞳は、輝く前髪に隠されていて見えない。 「ねぇ、どうして?きょーや。」 やめて、やめてよ京子。 膨大な恐怖が、僕を襲う。 「京子、」 真っ暗な闇の中、京子は何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。 どうして、と。 「ごめん、ごめん京子…っ!」 繰り返す京子に対し、僕も許して、と繰り返す。 「ごめ、」 「どうして、私とお兄ちゃんを助けてくれなかったの!?」 バッと、京子が顔をあげた。 「っ!」 バチ、と目が覚めた。 あたりを見回すと、机には書きかけの書類、そして見慣れた応接室。 …あぁ、寝ていたのか。 「嫌な、夢…」 額を滑り落ちる汗を、ワイシャツの裾で拭う。 そして、僕は再び目を伏せ、―――昔を、思い浮かべた。 小学生のころだった。 ある日、僕が裏庭で草食動物を咬み殺していると、突然了平がこちらに向かうのが見えた。 ガツンと最後の一匹を気絶させると、僕は了平の方を向いた。 「何?もう放課後だよ。京子と帰ったんじゃなかったのかい?」 「いや、その京子の事なんだが…」 不良に連れて行かれたんだ、と了平は苦しそうに呟いた。 それを聞き、僕はすぐさま原作の事を思い出した。 (了平が額に傷作ってきた話か…) そこで気になった。 弾丸のように一直線な彼だ。京子が連れて行かれたならそのまま「京子ー今助けるぞー!」などと叫びながら助けにいくはずだ。 …どうして、僕に知らせたのだろう。 「いや、恭弥にも力を貸してもらおうと思ってな……。」 「…そう。じゃぁ、手伝って上げるよ。」 可愛い京子のためだ、特別に手伝ってあげよう。 場所は変わって、現在恭達は並盛倉庫にいた。 「ここかい?京子が連れて行かれたのは。」 「あぁ。倉庫に来いと伝えられたからな!」 「そう。…じゃぁ、始めるよ。」 恭はトンファーを構えると、ドガァン!と倉庫のシャッターを破壊した。一体その小さな体のどこからそんな力だ出ているのか?了平は恭の強さに関心を示した。 シャッターは大きな音を立てると、大の大人が入れるくらいの隙間が空いた。 「なっ…!テメェ何しやがる!!」 「京子を、返しなよ。」 中には不良が十数人、これ位なら余裕だろう。 「おにーちゃん、きょうや……っ?」 か細い声がしたかと思うと、縄で縛られ身動きが取れなくなっている京子がいた。あまりの恐怖に泣いたらしく、目は真っ赤になって、顔が涙で濡れていた。 「京子ォ!今助けるからな!!」 了平の声を合図に、恭は地を蹴った。 バキ、と音がすると同時に悲鳴が上がる。 地に伏せた屍を踏みながら、次の標的に目を移し、素早く攻撃を繰り出す。 「ぐぁっ!」 顔面を殴られた男は顔を殴り、血を撒き散らすとそのまま地に伏せ動かなくなる。嗚呼、弱い。 チラリと了平に目を向けると、多少は怪我をしていたがアイツも順調らしく、敵を潰していった。 いける。 そう思った矢先――、 「う、動くんじゃねぇ!!動いたら…このガキを殺すぞ!」 一人の男が京子を押し倒し、ナイフを構えていた。 「京子!」 「おに、ちゃ…きょー、や……ッ」 カタカタと京子は震えている。 バキッ 「ぐぁあぁあっ!!!」 「! 了平!!」 京子に目が行っていたせいで不良を忘れてた…! 了平は近くにいた不良にスキをつかれ殴られる。幸い恭の周りは全滅していたため、恭が殴られることはなかった。 「了平!」 男に言われた言葉を忘れてしまった恭は了平に近付くと、すかさず不良を殴る。了平の周りにいた不良はすぐに潰れた。 了平の額が割れたのか、額からは血がたくさん出ていた。 すぐに駆け寄ろうとした、が。 「きゃぁあぁぁあ!!」 突然した京子の悲鳴にバッとそちらをむいた。 そこには、ナイフを振りかざす男が。 間に合わない。そう感じた恭はすぐさま男に向かってトンファーを投げた。 「がっ!」 それは見事顔に当たり、ナイフが京子の顔に刺さることは無かった。…しかし、首を掠ってしまったのだ。 「京子!大丈夫かい?」 「恭弥!私は大丈夫だけど、お兄ちゃんが!!」 京子は了平に駆け寄ると、大きな声でお兄ちゃん、と叫んだ。 「お兄ちゃん大丈夫!?」 「京子、お前は…大丈夫か?」 「私は、全然平気っ…!」 「良かった…。」 そこから、了平が動かなくなった。 「お兄ちゃぁぁあぁあぁあん!!!!!」 京子の叫びが、暗い倉庫に響いた。 ―――その後、僕らは救急車で運ばれた。不良は傷害で警察に連れて行かれた。僕と京子は小さな怪我だったので軽い手当てで済んだが、了平は額が割れてい為縫う事になった。 ―――了平が額を縫われている時だった。 「なんで……?」 突然京子が声を発した。 「なんで、私が小さい怪我なのに、お兄ちゃんだけ…。」 「京子…。」 落胆する京子に、心配した恭は京子の肩を抱こうとした。 ――――が、 「恭弥のせいだ。」 [*書類整理][咬み殺す#] [戻る] |