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「今日さ、三年生くらいの男の子が血まみれで保健室来たのよ〜。」
「血まみれって…病院沙汰の怪我?」
「んーん。ただ切り傷が多かっただけで問題ナシ。」
葉っぱで切ったんだって、と言った先生に僕はへぇ、と返した。
箸で魚を割く。尾を掴み、左へぐぃと引っ張る。油が付着した指を布巾で拭き取ると、前から唸り声が聞こえた。
「ムムム………!」
マーモンか、と一瞬脳裏をよぎった考えを振り払う。先程の唸り声の原因はもちろ泉先生。
焼き魚の骨と格闘中らしく、箸を両手に一本ずつ持っていた。チラリと焼き魚に目を移せば自然と溜息が出た。
彼女、泉先生の焼き魚は見るも無惨な姿へ変貌していた。魚の身はボロボロで、細かいものばかり。細い骨を取りだそうと更に細かくする。
…。見てられない。
「貸して。」
ヒョイと彼女の皿を取り上げる。あ、という声を無視して自分の皿を彼女の前に置いた。
「こんなにボロボロにしちゃ魚が可哀想だよ。
僕のあげる。」
「あー、う、ありがとう…。」
泉先生は遠慮がちに綺麗な魚に手を伸ばして食べ始めた。僕はボロボロに細かくされた魚に手を伸ばす。
「ごめん、恭。」
「別にいいよ。」
麦茶を口に含みながら、僕は先生に言った。
すると、泉先生は何を思いついたのか、そうそう、と別の話題を出してきた。
「恭はなんでそんなに並盛が好きなの?」
「うーん…。
泉先生と出会えた土地だから、かな。」
雲雀恭弥だから、というのもあるのだが一番大きな理由がそれだった。
この並盛で、泉先生と出会わなかったら、僕はダメになっていただろう。
先生のお陰で笑えた。
先生のお陰で楽しかった。
先生のお陰で、辛くなかった。
先生は、僕を助けてくれた。
僕にとって、先生は聖母のような存在でもある。
彼女が全てだった。
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