先生の料理
「…何、コレ。」
「…えへっ☆」
目線の先には焦げて黒くなった丸い物体。なんなのだろうか、と最初は思ったのだが、その黒い物体がお皿に乗せられているので、もとは食べ物だったという事が確認できる。
恭の脳内に、今日の会話の一部分が横切った。
「そうだ、恭。今日の夕飯は恭の好きなヤツにするから。」
…そうだ、僕はハンバーグって答えたんだっけ。
(――と、なると…。)
チラ、と物体に目を移す。
「ハンバーグなの、コレ?」
「…うん。名付けて、“泉の!真っ黒☆ハンバーグ”です!!…痛ッ!」
「そんな事聞いてない。真っ黒って、ただ焦がしただけじゃん。」
ゴッ、と頭に制裁の拳をぶつけると先生は頭を抱え痛い、と喚く。それから『やだ、恭ちゃんたら毒舌☆』なんて言うから今度は頭突きしてやった。
「痛いー!」
「…僕は痛くない。」
別に自分が石頭と言い張るつもりでは無いが、少なくとも僕は硬い方だと思う。痛くない、と言えば、こっちは痛いんですー、と返される。
全く、口数の減らない人だ。
―――さて、この真っ黒になったハンバーグをどうしようか。
「…先生、僕が作り直す?」
「…え、アンタ料理できんの?」
「先生に言われたくは無いよ。」
「Σう、痛いとこ突くなぁ。」
ははは、と笑う先生。この人は今までどうしてきたのだろうか。一人暮らしなのに料理ができないなんて…。
…まさか、コンビニとか?
それはマズい。健康を損なう恐れがある食品を毎日食べてたなんて。
栄養が偏(カタヨ)ってしまうだろう。
「…先生、今日からご飯作るのは僕ね。」
「は?」
「朝昼晩をコンビニで済ましちゃダメだから。お弁当も僕が作る。」
「え?ちょ、恭!!?」
コレをキッカケに先生の食生活を改善しなきゃ…!
(意味分かんないんだけど!by泉)
「おぉぉ…!」
泉の目前にあるハンバーグ。
それは白い湯気をたて、食欲をそそる香りを放つ。香りに乗って、ウスターソースとトマトケチャップを混ぜた独特の香りが辺りに漂う。
見事なまでに完璧なハンバーグ。彼女は後光が差しそうな輝いたハンバーグに目を奪われていた。
これが一流レストランで作られたものなら、感動はそこまで大きくは無い。
だが、このハンバーグは彼、恭が作った物だ。まだ、六年生になったばかりの彼が。
「やっだ恭!アンタ最高!!」
「…自分の好物だからね、練習したの。」
恭が言うと、泉はへぇ、と感心したような声を出す。
「じゃ、食べようか!」
「うん。」
「「いただきます。」」
合掌の様に手を合わせ、二人は箸を手に取った。
(やっば、美味しー!)
(…いつも通り、かな。)
(アンタこんな上手いモンを“いつも通り”だなんて…!)
(…箸動かせば?さっきから全然食べて無いじゃん。…没収するよ?)
(た、食べますー!)
今日知ったのは、先生が料理できないこと。
[*書類整理][咬み殺す#]
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