For XXX
自分と自分と過去
物事には、必ず理由がある。
私が嘘をついてしまったのは紛れもなく自分を守る為だった。だけど、自分を守る為だったはずの言葉なのに今はそのせいで身動きが取れなくなっていた。自分を苦しめてしまってる。
なんで、こうなったんだろう。
ただ静雄さんが好きなだけだったはずなのに。それだけなのに。何も複雑な事はない。ただ、それだけの想いだったのに。
――私、馬鹿だ
――馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ
病院のベッドに寝転がり深く布団を被る。病院のベッドは相変わらず薬品の匂いがして全く安心出来ない。
――早く、ここから出たい
――会いたい、皆に。
「会い、たい…」
――会いたい、会いたい
――静雄さんに。
――だけど、会いたくない。
「っ、…ぅ…」
涙が止まらない。
自分で無理矢理捩曲げてしまった過去の嘘。その嘘は決して消せない。
後悔を、してる。死にたいくらいに。時間を戻せればと思うのに時間は前にしか進まない。もっと、早くから頑張っていればよかったのかな。
――私は、自分の愛を守れてるかな
静雄さんを好きな気持ちを、自分のせいで殺したくなかった。
――好き、好きなんだ
涙が枯れて頬に干からびた涙の後が出来る。1人で泣くのは、辛い。泣き疲れた私は、少し寝ようと思い布団を全部被って寝ようとした。
しかし、それは大きな音によって止められる。
バンッ!!
布団の中に疼くまった瞬間に、物凄く大きな音と共に病室の扉が開いた。さくらは、驚いて布団から顔を出す。
「由、莉…さん…」
走って来たのだろうか。
そこには息を切らしながら私さくらを睨む由莉の姿があった。
「お久しぶり。工藤さん。」
こちらを見て、笑っている。
――強い、目だなぁ。
――なんでこんなに愛に素直になれるんだろ
呑気に、そんな事を思った。
「私はね、静雄が好きよ。愛してるわ。」
ゆっくりと、ベッドの中の私に近づきながら言う由莉さんは怖かった。だけど、私の頭には『由莉さん=静雄さんの彼女』の方程式しか浮かばなくて。
「あら?泣いてたの?静雄を想って?」
私のすぐ隣まで来た由莉さんは、ベッドに座り体をよじらせて私の涙の跡を綺麗にケアされた爪で撫でてきた。
「ごめんなさいね。失恋、辛いわよね。」
「……、」
由莉さんの爪が、私の頬の肉を割るように触ってくる。痛い。すごく痛い。私は思わず顔を強張らせた。
「だけどね、いつまでも静雄に想いをよせないでくれる?静雄が可哀相なの。」
「可哀、相…?」
今度は、薄く微笑みながら眉を下げる由莉さん。その瞳から目が話せなくなる。
「貴女の気持ち、静雄は知ってるのよ。だけど、ほら、静雄の彼女は私な訳でしょう?」
――あぁ、聞きたくない。
少しだけ、恐れていた事が起きる気がした。
「だから、貴女の気持ちには答えられない。正直、迷惑だって悩んでたの。静雄、優しいから。」
ほら、私が入院してから1番恐れるようになった事。
きっと、静雄さんに彼女がいて、それでも私をデートに誘ってくれたのは。
――優し過ぎる、人だから。
好意を寄せてる私を邪険に扱う事が出来なかったのだ。私を傷つけまいと、本当の事が言えなかったのだ。
「私、静雄さんを苦しめてた…」
ポタポタと、また涙が流れた。
"ただ、好きなだけなのに"
"好き"には"ただ"なんて言葉付けてはいけなかったんだ。だって、好きっていうのは片思いでさえ私だけの問題じゃないのだから。
「どうしよう…ごめんな…っ、さい…私っ…」
きっと、由莉さんさえも傷つけたんだろう、私は。
なのに。今この瞬間にも静雄さんを想う自分がすごく嫌だった。
「お前さえいなければ」
いつか祖母が私に言った、言葉が蘇る。
――私がいなければ、こんな複雑にはならなかった?
――私がいなければ、静雄さんが苦しむ事もなかった?
――私がいなければ、静雄さんは幸せになれた?
思考が、停止する。
そんな私に由莉さんが言葉を囁く。
「苦しいわよね。だけど、もう苦しまなくていいからね?」
「…っあ!?」
私は、急に訪れた痛みに訳がわからず声を上げた。
由莉さんが私の頬を触っていた手を後頭部にやり、髪の毛をぐじゃっとわしづかみにしてきたのだ。
「今から、楽にしてあげるから、ね。」
「…っ!!??」
そして、次の瞬間私の目の前に現れた鋭い刃物。その刃物の向こうで、うっすらと笑みを浮かべる由莉さんが、この時初めて悪魔に見えた。
「別に、貴女が嫌いとか憎いわけじゃないから安心してね?ただ、邪魔なだけなの。」
――狂ってる…!!
私は、この時初めて気づいたのだ。この人は、愛に正直なんではない。ただ、狂っているだけなのだと。
ゆっくりと、ナイフが顔に近づく。
「今度こそ、本当にさようなら、ね?」
――あぁ、もう本当に終わりだ。
私に抵抗する統べは、なかった。ただ、涙を流す事しか出来なかった。
――悔しい、悔しいよ。
――臨也、セルティさん、新羅さん…
――静雄、さん……
もう、何も見たくなくて。もう涙を流したくなんかなくて目をつぶる。
それと同時に、物凄く、由莉さんが病室に入ってきた時よりも遥かに大きな音が私の耳に響いて来た。
途端に私の頭を掴む由莉が離れる。
そして――…
「静、雄……」
由莉さんの口から一言、そう小さく呟かれた。
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