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小悪魔の計画


由莉が出て行った後の部屋で、携帯を片手に臨也は考える。


「(俺、どうかしちゃったのかな。)」


ディスプレイには『平和島静雄』とかかれている。その画面を見て半ば自嘲ぎみに笑いながら発信ボタンを押そうか押さないか迷っている。


「(なんで俺、シズちゃんに手貸そうとしてるのかな。)」


勘が恐ろしい程に良くて、かつ何人もの人間を観察し続けてる臨也はすぐに気づいたのだ。


"由莉はさくらをもう一度殺そうとする"


と。
だって、彼女は今頭が混乱している。焦っている。だからこそ、頭が回らないだろうから。ゆえに安易な答えしか出せないだろう。いらないやつを消すという、一番シンプルでわかりやすい答えしか。


そうなっては堪らない。なぜなら臨也はさくらが好きだから。


だけど、臨也は何故自分でさくらを助けようとせずに大嫌いな静雄に任せようとしているのか。
臨也だって、静雄程ではないが喧嘩はそれなりに強いつもりだ。それにナイフ裁きに関しては絶対の自信がある。それに、臨也にだって好きな女を守りたい気持ちはある。




「(分からない。)」




臨也は、この時人生で初めて自分が分からなくなった。本当は、分かりたくなかっただけなのかもしれないが。


大嫌いな大嫌いな静雄。殺し合いの喧嘩だってなんどもした事がある。でも、だからこそ臨也は静雄の力だけは認めていた。

そしてなにより、臨也は心のどこかで願っていたのだ。


"純粋なさくらの幸せ"を。


きっと由莉の事が解決してしまえば全てが丸く収まり、高い確率で静雄とさくらが付き合ってしまうだろう。だから臨也は静雄に連絡したくなかった。

だが、そんな臨也の気持ちとは裏腹に体が、脳が静雄に連絡をしろと言っている。全ては愛する彼女の為。



「(あぁ、だからこんな立場嫌なんだよ。)」



臨也は黒幕という普段なら大歓迎な自分の立場を呪った。

そして小さくため息をついてから、意を決して発信ボタンを押した。






――――――――――――――――



「静雄っ!」

「由莉、」


由莉は、池袋の街で静雄を探し回って、ようやく見つけていた。
見付けたと同時に、街のど真ん中であるにも関わらずギュッと抱き着いた。


「由莉?」


静雄には、心なしか由莉が泣いているように見えて。しっかりと静雄の背に腕を回して顔を埋める彼女を引き離す事が出来なかった。


「静雄、やっぱりヨリ戻したいよ。」

「……、」

「私は静雄が好きよ。昔だって」

「いいよ、聞きたくねぇ。」

「っ、」


━━昔だって、なんなんだよ。
あぁ、うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ。!


静雄はいつになくイライラしていた。さくらの事でもやもやしていたのもあるが、一番は、由莉に対してではなく自分の過去が理由だった。

過去なんて悔やんだところでどうしようもないが、それでもイライラするものはイライラする。

だけど、そのイライラと同時に静雄の中に存在する感情。

"苦しい"

その感情のおかげで静雄は暴れなくてするでいるのだが、静雄はこの感情が"苦しい"だとは気づかない。


その時、静雄の胸に顔を埋めていた由莉がボソッと呟いた。


「工藤さんのせい…?」

「!?」


静雄は、さくらの名前が出てきた事にびっくりする。なぜ、由莉がさくらを知っているのかと。


「工藤さくらが、好きなんでしょう?」

「っ!!」


この言葉を聞いたと同時に静雄の中で過去がフラッシュバックする。静雄に関わった事によって傷ついた女達が。


「てめぇ、もしかして…!!」


それと同時にさくらが重傷を負ったのを思い出す。静雄の鋭い勘が、由莉を睨む。


「…。私は何もしてないわよ。」

「はっ。どうだかな。」

「信じられないのも仕方ないわ。私はそれだけの事をしてきたんだもの。」


由莉は、涙でいっぱいになった大きな目で静雄を見上げる。その瞳に、静雄は目を離せなくなった。


「だけどね。私変わったんだよ。静雄の為に。」



そう言って、またぎゅっと抱き着いた。



「ねぇ、もう一度だけでいいから、私にチャンスをくれない?」



━━あぁ、情けねぇ。
━━俺は、さくらが好きなのに。

静雄の心臓は、ドキッと跳ねる。

どんなに最低な奴だって、一度は本気で愛した女だった。
もし、静雄が女に、恋愛に馴れていれば断れたのかも知れない。だが、純粋な静雄はこんなにも自分を思ってくれてる由莉をはねつける事なんて出来なかった。


静雄は、どうしていいのか分からず、複雑な気持ちのまま抱き着いてくる由莉の肩に両手を優しく載せた。


携帯のバイブがなっているのに気づかぬまま。




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