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For XXX
どうか聞かないで


病室には一定のスピードで流れる機械音だけが静かに響いていた。

しかし、病室の空気はとても重い。少しでも何かすればピンと張られた糸が切れて爆発してしまうような、そんなピリピリとした空気。

それもそのはず。
この病室には犬猿の仲である折原臨也と平和島静雄が同時に存在しているのだから。



━━なんでこの2人が同時に揃うんだ。あぁ、新羅。お願いだから何も言わないでくれよ。



セルティは祈るように願う。




4人が同時にこの病室に集まったいきさつはこうだ。


さくらが階段から落ちて意識不明の重体。


階段から落ちるさくらをたまたま目撃したセルティ。
セルティは迷わず静雄と新羅に連絡する。そして病院にも。
そのままセルティはさくらに付き添って病院まで来たのだ。

そして、手術が無事終わったと同時に静雄が駆け付けてきた。

必死にさくらの名前を呼ぶ静雄。

そして、次に駆け付けたのが新羅の何故か臨也。


PDAに『なんで折原臨也を連れてきたんだ!』と打ち込んで新羅に見せたら「だってさくらちゃんと臨也は幼なじみだから。」と返ってきた。


そして、静雄はぶちギレそうになる。しかし今はそんな事してる場合じゃないと(ここ病院だし)セルティと新羅が必死に止めてなんとか今の状態を保っているのだ。



━━あぁ、しかし頭部を軽く損失したけどあとは左足を骨折しただけで済んでよかった。命に別状はなくて本当によかった。

━━早く目が覚めてくれるといいが…


セルティはベッドで眠っているさくらの手を握りながらそう思った。
そしたら、ぎゅっと握り返して来る感触。


━━!!


セルティは慌てて新羅の肩を叩いて呼びさくらを指差しながらPDAを打ち込む。


『今、さくらちゃん私の手を握り返してくれたぞ!!』


その文字をみた静雄はがばっと立ち上がってさくらの肩を軽く揺さぶりながらさくらの名をを呼ぶ。



「おい、さくら!?聞こえるか!?さくら!?」

「…ん……」



そして、ゆっくりと目が開かれた。


「さくら!?」


まだ頭が回らないのか寝たまま目をゆっくりときょろきょろさせるさくら。

そして、静雄と目が合った。
「さくら?よかった…」


目が合った瞬間に、包帯で巻かれたさくらの頭を撫でながら静雄は静かにそう言った。


そして、さくらも口を開く。









「……誰…ですか?」










その場が一瞬凍りついた。


「は?何言ってんだよ…」


静雄の言葉だけが静かな病院に響く。


「おい、嘘だろ?嘘だって言えよ」


さくらの肩を揺さぶる。しかしさくらは目をそらして何も言わない。



「待って静雄。これは医者の仕事だ。」


肩を揺さぶる力がだんだん強くなったのに気付いた新羅は急いで静雄を止める。


「…っ!」


我にかえった静雄は泣いているようにも見えた。
そしてそのまま現実から逃げるようにして病室を出て行った。


静雄が出て行った病室に再び沈黙が流れる。

それを破ったのは、今まで黙っていた臨也だった。










「なんで嘘付いたの?」












臨也の目は真っすぐさくらを捕らえている。


『?』


新羅とセルティは意味が分からないと言った表情で臨也を見る。


『なんでって、記憶喪失になってしまったんだから仕方ないだろう。』


セルティはPDAにそう打ち込んで臨也に見せようとしたが、それより先に小さな声が聞こえる。



「ごめんなさい…」



その声の方を見れば、泣きそうなさくら。


「え、どういう事?」

「どういう事も何も、さくらは記憶喪失なんかじゃないって事さ。」

「!?」


新羅もセルティもその事実に驚く。


『なんでそんな嘘…』

「…分かんないけど、咄嗟に出た言葉だったの。」

「うーん、そっか。臨也はよく分かったね。」

「だってさくらったらシズちゃんと目が合った瞬間に顔がすごく強張るんだもん。バレバレだよ。」



臨也がいつもの口調、いつもの笑顔で言う。
さくらは咄嗟に両手で顔を覆った。



「あー、私、馬鹿だなぁ。本当馬鹿だよ。」


そして、笑顔を作ってこう言った。







「これでよかったのかなんて、聞かないでね。」

━━分かってるから。



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