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十個の義理より一つの本命(坂陸奥)
〜原作ver〜




「すまないな、付き合わせてしまって」



二月十三日の夜。
快援隊の調理室に、二つの人影があった。



「いえいえ、陸奥様の頼みならこのオババ、朝までお付き合い致します」


「ありがとう…この次は、どうすればいい?」



茶色い液体を掻き混ぜていた陸奥が尋ねる。大きめのエプロンには、開始早々から粉や染みがついてしまっていた。



「はいはい、そうしたらこの牛乳を混ぜて下さい」


「分かった…しかし、地球の風習は奇々怪々だな」


「ですねぇ。まぁ冬のお中元ということで一つ。陸奥様もあまり無理をなさらぬよう」


「ああ」







翌日。




「おはようございます陸奥様!」


「おはようございます!」


「おうおはようさん。ん」



眠い目を擦りながら、陸奥は綺麗に包装された白い袋を隊士に手渡す。
掌サイズの小さなそれ。



「?陸奥様、これは…」


「バレンタイン、っちゅーやつじゃろ?今日は」


「く、下さるんですか!?」


「ありがとうございます!」


「ん、今日も励めよ」



バレンタインには何ももらえないだろうと諦めていた隊士は、義理と分かっていても大喜びする。深々と一礼して、立ち去る陸奥に道を開けた。



「おぉ…クッキーだぞ」



陸奥が去った後、早速包みを開ける二人の隊士。中には、チョコレートのクッキーが六枚ほど入っている。




「多分、全員に作ってらっしゃるんだろうなあ」


「ああ。陸奥様は本当に部下思いのお優しい方だ」


「そうでもないぜよ」



さっそく一枚、と摘んだ時、不意に声が会話に乱入した。振り向くと、眉間に皺を寄せた坂本が立っている。



「あ、艦長。おはようございます」


「おはようございます坂本さん」



何故陸奥には様付けで自分にはさん付けなのか理解に苦しむが、それをとやかくいうほど坂本は狭くない。
そう、呼称くらいでは。



「坂本さんも貰いましたか?クッキー」


「まぁなあ」



ほれ、と見せたのは、隊士と変わらぬ大きさの包装された袋。ただ、坂本のそれは赤だったが。



「あ、色違いなんですね」


「もしかして二、三枚多いんじゃないですか?俺は六枚ですが…」


「そんな特別扱いなら喜んで受けるけんどなァ…こんなじゃぞ」



そう言って坂本は袋の口を広げた。中を覗いた隊士はその現状に顔を見合わせ、思わず苦笑する。


入っていたのは、隊士と同じ丸型のチョコレートクッキーで形も枚数も変わらない。ただ違うのは、その表面にチョコペンで大きく『義理』と書かれていることだった。



「全部に書いちゅうんじゃぞあのクソ女」


「はは…」



ぶつぶつと文句を言いながらクッキーを食らう坂本。何だかんだ言いつつ食べるんですね、全部に書くなんて一周回って本命なんじゃないですか。
そう思ったが、隊士は口には出さなかった。



そして、本来陸奥は『ありがとう』と一文字ずつ書いて、最後の一枚にハートを書いた所で恥ずかしさに負け六枚全てを胃に収めてしまったことは、オババのみが知る。











〜3Zver〜




「テスト近いからっちゅーとったのは誰じゃ、まったく…」



職員室の自分の机で、坂本は必死ににやけを隠していた。
彼の両端に置かれているのは、課題のノート。半分ほどチェックしたっころで、見つけたのだ。



『今日の夜八時、公園で待つ』



どこの果たし状だ、まったく色気の欠片もない。だが、寒空の中自分を待ってくれている彼女を想像すると、愛しくて堪らない。


早く時間になれと、坂本は昼休み中盤をさす時計を見やった。





「おい天パ。片割れの天パはどこ行った」


「何でアイツとセット?なんつーか、八時に決闘申し込まれたから修行に出るってよ」


「職員会議バックレやがってあのモジャモジャァァァァァ!!」










〜学パロver〜



「はち、きゅー…十!十個じゃ!」


「残念じゃな、わしは十四個じゃ」


「ああああまた負けたああああ!」




二月十四日の夕方。
学校にほど近い近所の公園のベンチで持ち物を広げる男女がいた。


本日、バレンタインの収穫高の競い合いである。チョコを互い以外から貰い始めてからやっているが、坂本が勝ったためしがない。




「陸奥…わしよりチョコ多いってどういうことじゃ。部活もやっとらんのに…」


「何か知らんが、また子によるとわしに一目惚れしちゅうらしい」


「へー…そりゃモテモテでー…」


「こら取ろうとしな。おまんも十個貰っちゅうなら充分じゃろ」


「ほとんど義理で駄菓子じゃけどな」



陸奥が持つチョコレートは皆綺麗に包装された可愛いものばかりで、いかにも女の子が悩んで選びました、といった具合だ。
一方坂本が持つチョコレートは、チロルが二つ、ブラックサンダーが一つ、ポッキーが二つ。いかにも女友達が義理でくれた、といった具合だ。


しかしそんな中にも、綺麗に包装された可愛いものが二つほどある。




「…しかしその二つは、たいそうなモンに見えるけんどな」


「ん、コレがか?一個はまた子ちゃんから貰ったんじゃ。四つ買って、高杉が選ばんかった方をわしらにくれたんぜよ」



なるほど、四つほど候補があって決めかねて、高杉自身に選ばせたのか。彼女らしい。




「もう一つは」


「こっちのは手作りぜよ」


「手作り?」


「お妙ちゃんのな」



ああ…とその場に重い空気が流れる。教室で、止められなくてごめんなさいと弟が謝っていたそうだ。



「ちゅーことは本命は一個もなしか。悲しいのう」


「アッハッハッハッ、何ちやーないぜよ。わしは本命一個で充分じゃき!」



すると、頂戴、と言うように坂本が手を出した。まるで子供のように、わくわくと目を輝かせている。



「…なんじゃこの手は」


「分かっちゅうクセに!本命チョコ、くれ!むっちゃん!」


「ない」


「…へ?」


「ないぜよ」



そう言うと先程までのはしゃぎぶりから逆転し、 世界が滅亡するかのような表情をする坂本に思わず笑ってしまった。



「冗談じゃ。わしの家にあるぜよ」


「何じゃー…驚かさんで欲しいぜよ」


「さっさと行くぞ、寒いきに」


「なぁ、家にあるっちゅーことは、チョコごとむっちゃんを食べてもええっちゅーことでファイナル…」


「残念不正解」



鼻の下を伸ばす坂本に鉄拳をいれて立ち上がる。それでも、陸奥の家で彼女特性のガトーショコラを食べる時には、坂本の鼻の下は再び伸び切っていたが。









〜幼少ver〜




「たつま…これ…」


「おぉチョコ!くれるんか?」


「お、乙女ちゃんにおそわって…つくったんじゃ…かたち、わるいけど…」


「ありがとな!うれしいぜよ!」


「…よかった。おいしい?」


「うん!すごいうまいぜよ!大好きじゃ陸奥!」


「わ…わしもたつま、すき…」












「あああああ何じゃアレは天使か?人間界に舞い降りた天使か?かわいすぎるかわいすぎるカメラカメラ…おぉあとビデオとテープとそれから…うあああ腕がたりん分裂しろわし!」


「おい落ち着けバカ親父」













(坂陸奥詰めバレンタイン!)

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