[携帯モード] [URL送信]


サンタの中にはサタンがいる (土ミツ)
雪がちらつく、12月24日の夜。
真選組屯所の広い敷地内にある物影に隠れながら煙草を吹かしているのは、怪しい輩ではない。


普段の黒い隊服を着ていないが、それはれっきとした真選組副長である。
赤と白を基調とした、この時期ならではの服装。傍には白い大袋。


短くなった煙草を消し、待ち人が来るまでもう一本、と新たな煙草をくわえて火を付けた、その時。



「十四郎さん、十四郎さん」



潜めるような、聞き慣れた声がした。
やっと着たか、と土方は声がした方を振り向く。だがその瞬間、手にしていたライターの火が狂ったように燃え上がった。
当の土方もそのライターの異変に動ずることなく固まってしまう。


そんなライターの異変よりももっと目を引き付けるものが、目の前に現れたからだ。



「ごめんなさい、着替えるのに手間取って…」



そう言って笑うのは、彼の恋人。相変わらずのその可憐な笑顔で、土方の前に現れた。
だが問題は笑顔ではない。
いくら土方でも、いつも見ているそれに固まったりライターが燃え上がったりはしない。


土方とライターに異変をもたらしたのは、その格好だったのだ。
土方と同じ、赤と白を基調としたこの時期ならではの服装。
土方と違うのは、細い体に不釣り合いともいえる割と豊満な胸が覗く上半身の衣装と、普段見せない足が太股まで見えてしまうほどの、短いスカート。



「お…お前なんて格好してんだ馬鹿!」


「え?どこか変ですか?」


「変とかじゃなくてな、そんな胸と足出して風邪引いたらどうすんだよ!」



目のやり場にも困る、とは言わなかったが、既に心臓はバクバクだ。
大袋を抱えて足元を見るミツバは、何がいけないのか分かっていないようだが。



「大丈夫ですよ、暖かい素材のストッキング履いてますし…そもそもお店で、サンタさんの服下さいって言ったらコレを渡されたんですから…」



その店員グッジョブ!
じゃなくて、こんな皆が寝静まった頃合いに何て爆弾を運んで来たのだこのサンタクロースは。


そもそもの経緯を思い出しながら、土方はなるべくミツバの首から下を見ないよう眼球を持ち上げた。




かれこれ二週間前になるだろうか。
偶然、ミツバがクリスマスイブに真選組の皆にプレゼントを配って回ろうと計画を立てているのを知った。



初めはそれに乗るつもりは無かった。クリスマスのような天人行事はあまり好きではないし、その夜はマヨチキンとマヨケーキで過ごそうと思っていたから。


だが、見かけによらずイベント事が好きなミツバがより本格的なものを求め、夜にこっそり各人の枕元にプレゼントを置こうとしているのを知った時、土方は共にすることを決めたのだ。



寝静まるほど夜遅くに、ミツバを他の男の部屋に入れるなど彼女の身が危ないし何よりも自分が許さなかった。


おしとやかな分おっとりしていて無自覚ニブチンなミツバは、そんな土方の心配と男の性に気付くことなく、二人の秘密ですよ、と指を立てて笑った。



そこからプレゼントを何とか用意して、服も店で買って今に至る。
秘密ですよ、のミツバがあまりに可愛くて乗ったが、今思えば全て自分でするからお前は寝ていろと言っておけばよかったと後悔する。



「それじゃあ、早速行きましょう?」



そんな土方の心中をそっちのけで、ミツバはゆっくり物影から出た。
そろりそろりと歩く後ろ姿にまた可愛い、と思っているあたり俺も学習しねぇな、と思いつつ土方はその後を追った。







最初についたのは、局長の近藤の部屋だった。何だかんだで二人とも近藤には恩も尊敬もあるので、最初はやはりここだろう。



「音たてるなよ、ミツバ」


「ええ、大丈夫です」



小声で囁き合って、ゆっくり襖を開ける。豪快な鼾の通り、彼は熟睡していた。



「寝てるな」


「ええ」



土方が覗く下から、ミツバも覗く。
ああそんなに屈んだら胸が見える…と凝視していた自分を殴りたくなる衝動を堪えながら、中へゆっくり足を踏み入れた。



気配を消しているのでバレることはない。ミツバも、慣れないながら息を潜めていた。


土方が持っていた大袋から、近藤用のプレゼントを取り出す。
本来ならば志村妙の写真や所有物の方が喜びそうだが、警察としてそれは選べなかった。
代わりに、男用の香水が入った箱を枕元に置く。これで少しはゴリラから格上げされればいいが。




「おぉ〜い、トシィ…」



急に名前を呼ばれて、起こしてしまったのかと焦るがその目は開かれることは無かった。
ミツバと目を合わせて、寝言だと胸を撫で下ろす。



起きる前に出るぞ、と促して、二人はいそいそと部屋を出た。そして、襖を閉めざまにまた寝言が。




「あっはっはぁ〜…トシはミツバ殿にゾッコンだなぁ〜…」



ほっとけ!









次にたどり着いたのは、ミツバの弟、沖田総悟の部屋だった。
近藤と違って鼾は聞こえない。寝ているかどうかも分からないし何より人一倍気配に敏感な沖田を起こさないよう忍び込むのは、厄介に思えた。



「ミツバ、総悟のはお前が持ってるんだよな」


「ええ。ここに」


「俺が置いてくる。お前は待ってろ」




気配を消す、ということに慣れていないミツバが行けば、きっと沖田は起きてしまう。
それを分かってか、ミツバは何も聞かずにプレゼントの箱を土方に渡した。


大きさと軽さから見て、新しい服か何かだろう。呉服屋で品定めをするミツバの姿が目に浮かぶ。



それを小脇に抱えて、そろりと襖を開けた。広い部屋の真ん中、電灯の下に、横になっている人影がある。


近藤の時よりも何倍も神経と感覚を研ぎ澄ませて、ゆっくり侵入する。
沖田の部屋には、どの筋から入手したのか分からないSM器具が所々に散らばっていた。こんなものは、姉に見せるものではない。つくづくミツバを外で待たせておいてよかった。



そう思いながら、枕元から少々離れた所に姉からのプレゼントを置く。
起きたらきっと喜ぶだろう、と息を吐いてそそくさと出ようとした、その時。



「…死ね土方ァァァ!」



突然の怒号と殺気に振り向けば、刀を抜いて襲いかかって来る影が。
声を上げそうになるのを堪えてその刃をかわせば、沖田は畳に刺さった刀にもたれるようにそのままずるずると床に伏した。目は、開いていない。




「(あっ…あっぶねぇぇぇ…)」



どんな夢を見ているのだ、そもそもどんな寝相だ、と心中突っ込みながら、今度こそ土方は生きて部屋を出ることができた。




「お帰りなさい、十四郎さん」


「あ、あぁ…」


「どうしたんですか?酷い汗…」


「何でもねーよ。アレだ、お前…今日暑いだろ」


「雪降ってますけど」



ホワイトクリスマスになるかな、と呟くミツバからどうしたらあんな弟が育つのだ、と思いながら次に行くぞと足を進める。













その後は取り入って大きな問題もなく、順調に進んだ。隊全員、となるとさすがに時間もかかり骨も折れたが、何とか夜明け前には全て終了できた。
この作業を全世界の子供相手に行っているサンタクロースの労働に改めて敬意を払う。



「何とか終わったな」


「ええ、お疲れ様でした。十四郎サンタさん」



さかなクンさん、のようなその呼び名に戸惑いつつも、お前もな、と返しておいた。
首を回して欠伸を一つする。クリスマスと言えども朝日が昇れば真選組としての仕事が待っている。早く部屋に引き上げて仮眠しよう。


そう思った矢先、ミツバがすっかり軽くなった大袋から一つ、小さな箱を取り出した。
まさか、と思えばそのまさかで。




「これ、どうぞ。ミツバサンタからのプレゼントです」



そう言って、一片の曇りもない笑顔を向けるミツバ。その格好でその台詞はただの殺し文句だ。やはり無自覚ニブチンで、それでいて厄介な天然で。



「あ、あぁ…悪い…」



煩い心臓の音に気付かれないように、それを受け取った。軽さからして、ストラップか何かだろうか。もしそうならば、きっと中身は以前土方が欲しいと言っていたマヨネーズのマスコットだろう。



「どういたしまして。それじゃあ…」



おやすみなさい、と踵を返そうとしたミツバを、土方は考えもなしに呼び止めた。


実を言えば、ミツバの分のプレゼントは用意していない。近藤を含めた隊半分のプレゼントは用意したが、真っ先に用意すべき彼女のプレゼントは最後まで何にしていいか分からず、用意できなかったのだ。




「悪い…お前の分、用意してなくてな…」


「…平気ですよ、総ちゃんにも、近藤さんにも、皆さんからも貰いましたから」



だったら尚更だ。
他の男があげたのに、他の連中にはあげたのに、俺だけが、ミツバだけには、何もない。それが嫌なのだ。



「だから…今欲しいもの言えよ。何でもくれてやる」



例えば、日本中の辛い食べ物を全部と言われても、今から全国を駆け巡って職権乱用してでも耳揃えて持って来てやる。
行きたい場所があれば、貯金を叩いてでも今から飛行機でも宇宙船でもチャーターして連れていく。



それだけの覚悟はできている。何だって来い、何だってしてやる。
そう意気込んでいたのに、しばらく考えていたミツバはおもむろに両手を広げた。色白な顔を少し、赤らめながら。



「だったら…寒い、ので…抱き締めてください」




日本中の辛い食べ物よりも、宇宙旅行よりも、もっと簡単にできてかつ最も単純な要求。
土方は、彼女なりの最大限の要求を、余すことなく抱き締めた。



「…もっと貪欲になれよ、お前…」


「ふふっ、いいんです。総ちゃんがいて、近藤さんがいて、皆さんがいて…十四郎さんがいてくれるだけで私、凄く幸せだから…。これ以上何か強請ったら、バチが当たっちゃいます」



嬉しそうに土方の背中に腕を回すミツバにはきっと聞こえているだろう、彼の鼓動が。


情けねぇな、と思いながらも土方は頭と肩に回した腕の力を緩めなかった。






頑張ってプレゼントを配り終えた後、サンタクロースには世界中から感謝と賞賛の声が贈られる。
俺にとってのそれがコレならば、サンタクロース気取りも悪くない。単純だが、土方はそう思った。





















(サンタ衣装のミツバさんマジ天使。サンタ衣装じゃなくてもミツバさんマジ天使)

前*次#
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!