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「お届けものでーす」




十月三十一日。
世間ではハロウィンとして知られているその日、大学では多くの生徒が飴やチョコを配ったり貰ったりしていた。



仮装はさすがになかったものの、妙もそのイベントに便乗してチロルチョコを配布し、変わりに飴やスナック菓子を貰って上機嫌だった。




中でも、仲のいい友人からはそれと伏せて誕生日のプレゼントももらい、妙の鞄は行きよりも重くなってしまった。幸せの重さだ。



そんな中、日が沈んで帰宅し、夕飯も済ませた頃にインターホンが鳴ったのだ。黒猫宅急便の、お兄さんにより。





「銀さんから…?」




荷物を受け取り、サインをした妙はその差出人の名前に反応した。



今、西の大地へ出張している彼。
銀時も、彼の誕生日に妙がやってのけたようにこっそり抜け出してやる、と先日言っていたが、依頼内容からそれは不可能だと却下され、嘆きながら新八や神楽に引きずられて飛行機に乗った銀時を妙は見送ったのだ。





そんな男からの、誕生日の贈り物。



小さな箱に伝票が貼られたそれを居間まで持って行き、テーブルに置く。
そして、ここにはいない男に小さくありがとう、と言ってそれを開けた。




中に入っていたのは、これまた小さい箱。マトリョーシカのごとく、一回り小さい、ラッピングされた箱が入っていた。



そしてもう一つ。小さな紙が、その箱を覆うようにして入っていた。
見てみると、『開ける前に電話くれ』と、銀時の字で書かれている。




そんなことを言われれば逆に電話する前に開けたくなるのが人間の性だが、銀時がプレゼントを誕生日になるまで開けない、という約束を守ってくれていたので、妙も守ることにする。




携帯を取出し、スピードダイヤルに登録された番号へとかける。
番号が並び、保留音。
一回、二回、三回、四回。




『よう、もしもし?』




五回目の保留音が途切れ、聞こえてきた男の声。



もしもし、なんて聞き慣れた言葉でも、それが銀時のものであるというだけで安心する。




「銀さん、お疲れ様です」


『おう、お互いな…荷物、届いたか?』


「はい、たった今」




電話の奥が騒がしい。
ちょっと悪い、と言った銀時が一喝したが、すぐに電話が乱れて銀時の叫び声が聞こえる。そして。




『姐御ー!誕生日おめでとうネ!』


「神楽ちゃん!ありがとう」


『もしもし姉上ー!おめでとうございます、元気ですかー!?』


「ええ、新ちゃんもありがとう」






まるで何日も会っていないようなテンションで話す弟に笑みが零れる。
銀時と付き合い始めて日々が楽しくなったが、それ以前に妙は新八という家族がいてくれて幸せだった。



段々手がかからなくなり、自分の後をついてまわることがなくなったが、それでも変わらず仲のいい姉弟でいてくれたことで、妙はこの一年とても充実したものとなった。




勿論、神楽の存在も大きい。
姉のように慕ってくれている神楽と一緒に買い物に行ったり食事をすることも多く、本当の妹のように思えたこともあった。





そんな、以前からあった繋がりに銀時が恋人として加わり、たった三人の存在が妙にとってはとても大きなものになっていた。





『あー、ったく、ガキはどいてろ俺は話があんだよ。風呂でも入ってろ』




携帯を奪い返したのか、銀時の声が小さく聞こえる。


どうやら、新八と神楽の邪魔が入らない場所まで移動しているようだ。




『もしもしお妙、切ってねぇか?』


「はい、大丈夫ですよ」


『悪いな邪魔入って』


「そんな。新ちゃんも神楽ちゃんも元気そうで何よりです」




長旅で疲れている様子もなくて安心した。むしろ、声が聞けて嬉しい。




『…でよ、本題に戻っけど…』


「ああ、プレゼントですか?」


『おう…開けてみ』




携帯を耳に当てたまま、片手で包装のリボンを解く。



小さな箱に入れられてきた小さな箱を開けてみると。




「…キーケース、ですか?」


『おう。お前、家の鍵もチャリの鍵も全部バラバラだろ?だから丁度いいと思ってよ』




たまに、家の鍵と自転車の鍵が混ざってしまって家の鍵で自転車のチェーンを開けようとしたこともその逆もあるが、それを見られていたのか。



少し恥ずかしいが、柄がウサギで妙の好きなものを選んでくれていてそれも吹き飛ぶ。




「ありがとうございます銀さん。大事にしますね」


『…おう』




かわいい柄のキーケースを選んでレジへ持っていく銀時を想像したら少し笑えた。


だが一方の銀時は、大事にしろ、や気に入ったか?などとは聞いて来ず、黙ってしまった。




何かあったのかと思ったが、黙っているわけではなく言葉が出ないようで、電話ごしにうー、だのあー、だの小さな呻きが聞こえてくる。




どうしたのか、と聞いてみると。





『…お妙、それさ』


「はい?」


『…開けてみてくんね?今』




不思議と緊張した声で、何故かこちらまで心拍数が上がってしまう。
中に何か入っているのだろうか。もしかしたら、妙がやったようなメッセージカードの類いだろうか。



あらかたのことを想像しながら、妙はちょっとやそっとのことでは驚かないぞ、と意気込んで止め金を外し、ゆっくり開けた。





瞬間、その意気込みが全く無駄だったことを知る。



驚かないようにしていたのに、中に入っていたものが想像をしていない物だったからだ。




『…重くねーかと思ったんだけどよ…お前に、貰ってほしかったから』




そこには、鍵があった。
妙の知らない、しかしどこかで見たことがある銀色の鍵が、既にそこにあったのだ。




「…銀、さん…これって」


『…俺の、部屋の、鍵。来たいときにいつでも来て入っていいからよ』




銀時の言っていることに頭がついていかず、呆然と鍵を見つめる。
それでも、銀時は続けた。




『この前喧嘩して思ったんだわ。頑固で変なとこで意地張って全部一人で色んなモン背負い込むお前が…弟思いで、面倒見よくて…料理が壊滅的ですぐ手が出て…いつも笑ってるお前が、俺は好きなんだって』


「…銀さん…」


『だから…いつもみてーに、俺達が忙しくて会う機会あんまなくても、お前が部屋で待っててくれたら嬉しいっつーか…依頼主がクソ野郎でもバカでもハゲでも何でも、帰ったらお前がいて、お帰りって言ってくれるってだけで…その…』


「…」


『…帰ったら寒いだけの部屋が、お前がいるだけですげーあったけーから…それ、貰ってくんねーか』




段々弱々しくなっていく声から、ようやく銀時がどんな思いで、本気でこれをくれたのかが分かった気がした。



手の中のキーケースを、胸に抱く。





『…お妙、』


「銀さん…銀さん…ありがとうございます、銀さん…」




三週間前の銀時の気持ちが分かる。
こんなの、反則だ。会いたくなってしまう。




「すごく…すごく嬉しいです。ありがとうございます…」


『…貰ってくれっか?』


「勿論です。大事にしますね」




キーケースも、鍵も、銀時の気持ちも。



その言葉を聞けてようやくホッとしたのか、銀時の口調がいつもの調子に戻る。




『じゃあ早速、俺がそっちに帰る日にでも使ってくれよ』


「あ、それはダメです。新ちゃんにおいしいご飯作らないと」


『えー何だよそれ!お前俺より新ちゃんかよ!?』


「好きなのは銀さんですよ。新ちゃんは、大事なんです」


『…銀さんフクザツです』


「だから銀さんも、帰ったら私の家に来て下さい。神楽ちゃんも誘いますから、数日遅れの銀さんと私の誕生日、皆でお祝いしましょう?」


『俺なんて何日遅れだよマジで』




笑いながら話しているが、実は少し涙ぐんでいることはバレているだろうか。



銀時の気持ちが嬉しくて、会えない状況が寂しくて、それでも幸せで。




銀時と話しながら、志村家の鍵をキーケースにつけた。



銀時の鍵の隣に、妙の鍵。





銀色に光るふたつが、隣同士で寄り添っていた。










Happy Birthday,志村妙。
次の一年も、どうか、幸せであるように。














(お妙さんおめでとう!これからも万事屋の姉さん&銀魂の姉さんでいて下さい!)

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あきゅろす。
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