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B
十月十日。
少し前までは体育の日として扱われ、全国的に運動会開かれていた日。



秋も徐々に深まりつつあるそんな日の夜、銀時は自室で正座をしていた。
目の前にあるものは、先日一足先に貰った誕生日プレゼント。




数日前、学会へと出かけていった恋人からの、プレゼントだった。






今日の朝、いつもより早く目が覚めて、甘味やジャンプなど、銀時が大事にしているものをしまう棚に置いておいたそれを引っ張りだした。



誕生日になるまで沈黙していたプレゼントが、今日ようやく開封を許される。



律儀に妙との約束を守った銀時がいざ、開封の時を迎えようとしたのだがそれができない。



早く開けて中身を見てみたいが、開けてしまうと今日一日の楽しみが全て持っていかれてしまう気がしたのだ。




妙と喧嘩はしょっちゅうだが、それはあくまでも軽い口喧嘩などで、大抵の場合は殴られて終わる。銀時が。



だが今回、初めてお互いに動向一つ一つが気になったり、悩んで苦しんだりしたのは初めてのことで、その仲直りの直後に貰ったプレゼントならば、楽しみにしないはずもない。




ショートケーキのイチゴは最後に食べる派の銀時は、開封するのは夜にするかと再びそれを棚にしまい、出かけていったのだ。





そして、お待ちかねの夜。
夕飯を済ませ、風呂も歯磨きも全て済ませた。



後は、目の前に鎮座しているものを開封するだけだ。




大きさと軽さからして、食べ物ではないだろう。触りごこちから、マフラーの類いではないかと秘かに予想する。




今日一日、新八や神楽を始めとした面々に言われた祝いの言葉を思い出し、深呼吸を一つ。




最後の最後は恋人からのプレゼントで締め括ろうと決め、いざ出陣!とテープに手をかけた、その時だった。




その辺りに放り出された銀時の携帯が鳴る。



普段ならば、こんな大事な時にと誰からの電話か確認するまでもなく電源ボタンを連打するところだが、今回は違う。




鳴り響く着メロ。
ある人だけに設定した、彼女が好きなバンドの、名曲中の名曲。




僕は君だけを傷付けない、なんて歌詞が喧嘩中は痛かったが、今はそれを耳にしながらゆっくり携帯を開いた。



ディスプレイに表示された、志村妙の文字。





「…もしもし?」


『銀さん…今大丈夫でしたか?』




声の主は、想像通り。
銀時が、その動向一つ一つを気にした彼女だった。


「おう、全然大丈夫。お前こそ平気か?そっち寒いだろ」


『…ええ、まあ』




曖昧な返事の背後が騒がしかった。
どうやら外にいるらしく、車の音が聞こえる。




『プレゼント、もう開けました?』


「いや、今開けようとしてたとこ」


『え?今ですか?てっきり銀さんのことだから、こっそり誕生日前に開けちゃってるかと…』


「酷ぇなオイ…誕生日前に開けるなっつったの誰だよ」


『そうですね…ごめんなさい。じゃあ、開けてみて下さい』




妙の言葉と背後のノイズを聞きながら、片手でテープを外す。
シンプルなラッピング紙を開いてみると、そこには赤いリボンで結ばれた手袋が、一組。




「おー、手袋か」


『ええ。これから寒くなりますし…銀さん、寒いの嫌いだから』


「ありがとな、お妙」


『いいえ、手編みじゃなくてごめんなさい』


「いいよ、んなことは」




青と黒の毛糸で編まれた手袋を手に取ってみると、普通のそれよりも温かく感じた。



恐らく、CMなどで宣伝されている温かい手袋、の類いだろう。




『…あの、銀さん』


「んー?」


『ちょっと、つけてみてくれませんか?』




おずおずと聞いてくる妙。サイズが合うかどうか不安だったのだろうか。



銀時は携帯を肩で支え、左手から指を通した。




手で持った時よりも温かく感じるそれは、まるで合わせたかのように銀時の手にぴったり合う。



選ぶ時、もしかしたら自分と手をつないだ時を思い出しながら買ったのだろうかと一人浮かれながら、右手も手袋へ入れた。




すると、指の先に当たる違和感。
爪先で引っ張りだしてみると、それは小さく折り畳まれた紙。



レシートや値札とは違う紙質のそれを開くと。





『Happy Birthday銀さん。大好きです』





メッセージの文字と、妙の台詞が重なる。





『もっと洒落たこと書きたかったんですけど…うまく、文字にできなくて…』




顔は見えずとも話し方で分かる。
きっと妙は今、照れながらも笑顔でいるはずだ。


そして、今の自分の顔は、鏡を見ずとも熱で分かる。きっと今、頬を染めながらにやけているはずだ。




「…お前さぁ、狙ってんのか?」


『何がです?』


「こんなもん、反則以外の何物でもねーよ…会いたくなっちまうだろうが」




数日前、耐えぬいて彼女を見送ったにも関わらず。こんな状況で、こんな言葉を残されては。




『…ええ。私も会いたいです』




妙の声が反響した。
どこかの建物に入ったのだろうか。




『銀さんが大好きなんです、本当に…誕生日、一緒にいたいです…』




妙のヒールの音が聞こえる。
しかし、それは電話ごしだけではなかった。



どうして。
どうして、電話から聞こえる音と、外から聞こえる音が、一致している?




『…ですから、銀さん』




その音が止んだと思うと、部屋に響き渡るインターホンの音。




誰かを確認することもなく、扉を開けた。





「…来ちゃいました」




そこに、携帯を片手にはにかんでいる、恋人がいた。




「なん…で…」


「ちょっと抜け出して来たんです。新幹線って便利ですよね」




そう言ってまた笑った妙を、銀時は抱き締める。




恐らく合間を縫ってこっそり抜け出したのだろうが、その気持ち以前にこうして誕生日に会えたことが嬉しかったから。


きつく抱き締めた体は今回は、妙の方が冷えていた。




「お前がそんなに不良だとは知らなかったよ」


「大丈夫ですよ。あと三時間したら戻ります」


「そうか、三時間……え!?」




三時間。今の時刻は七時過ぎ。
きっと、最終の飛行機に乗るつもりなのだろう。




しかし、三時間では先日のごとく、何も出来ない。




「はい、こっそり抜けて来ましたから」


「お前なぁ…」


「ですから、銀さん」




銀時の背に腕を回して、肩に額を預ける妙。




「三時間、好きにしても構いませんよ」




喧嘩の後仲直りをしたと思いきやお預け状態になり、後ろ髪を引かれながら見送って、誕生日に大好き、と言われ、今のこの言葉。



それで何もするなと言う方が無茶で、銀時は妙を抱えて扉を閉めた。




「…知らねーぞ、明日どうなっても」


「ふふ、大丈夫です」












Happy Birthday,坂田銀時。
どうか、幸せな、誕生日を。














(銀さん改めておめでとう!どうかお幸せに!)

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