離したくはない
2
「何で適当なんだよー」
「お前しつこい」
「ひでぇ!マジ深刻な悩みだしなー」
「はいはい」
この前も同じこと言ってましたけど。
大和がウダウダ何か言っていたが無視をして、曲を選んでいると再度マイク越しに言葉が発せられる。
「あーあ。誰か付き合ってくんないかな」
そちらに目を向ければ、ジトッとこっちを見つめてくる大和と目が合った。
「…なに。紹介出来る女居ないけど」
残念ながら、俺は大和と違いイケメンという部類には間違っても入らない。
だから、女友達なんて全くと言っていい程居ないのは知っているはずなのに、この台詞も何度も言われている。
面倒臭そうな顔でそう言うと、大和は不貞腐れたような顔になった。
「もお、宮田ちゃんのバカッ!」
「はいはい」
もう1度大和の言葉をスルーして、早い手つきで曲を入れる。さあ、歌うぞー。
「あー歌った歌った」
「お前歌い過ぎなんだよ」
満足げな大和とカラオケ店を出る。
そりゃあ、歌ったとも言いたくなるだろ。
俺が歌っている間に何曲も入れれば、歌う曲数は多いはずだよ。
トイレに行っている間に5曲連続で入れられた時は、さすがの俺もゲンコツをお見舞いした。これで割り勘って納得出来ません。
「この後どーする?」
「あー…帰ろっかな。金欠だし」
「マジ?つれねー奴だな?帰らせねーよ?」
もう夜中の1時過ぎを回っている。
それなのに、まだ遊び足りないらしく子犬のような可愛らしい顔で目をウルウルさせてくる。
この顔で女は落ちるのか、なんて顔が引きつった。
「はあ…何すんだよ」
「さすが、宮田!うち来ねー?」
だが、実は俺もこのウルウル顔に弱い。
多分動物が好きだからだろう。
少し迷ったけど、一応返事をしてみると嬉しそうに肩を組まれた。この場合、既に俺に拒否権はなくなる。
「…はいはい」
「おっしゃ、飲もうぜ」
嬉しそうに笑う大和につられて笑う。
自己中というか何と言うか…それでも、こいつと居ると自然と笑顔になってしまうのが甘さの要因だな。
「ウイイレしよー」
「あ、やりたい」
「だろー?やらせねーけど」
「どっちだよ」
だけど、この日大和の家に行ったことが、後の俺の運命を大きく変えることになるなんて知らなかった。
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