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阿部微甘


ごめんと謝った君は、好きな人いるの?という彼女の問いに小さく頷いたように見えた。



そんなの、知らなかった。


あぁ、どうしてだろう。
こんなにこんなに胸が苦しいのは。




『お疲れー』

「おー」



ベランダ越しに顔を見せる彼に声をかけると、少し眠そうに返事が返ってくる。


『今日告られてたね』

「…見てたのかよ」



嫌な顔をする彼を見て私は笑いながら言い訳。



『たまたま通りかかったんですー』

「あーそうかよ」

『そんな怒らないで』



最近ではあの夏の暑さが嘘のように涼しくなった。
いつからだったか、虫の音が聞こえてきて、あぁもう秋なんだと感じる。


ベランダの手すりに手をかけ頬を乗せると鈴虫だかコオロギだかの虫の声が耳に入ってきた。
私はそっと目を瞑って、口を開く。



『隆也ぁ』

「何?」



彼は小さく返事をする。
私はそのままずっとモヤモヤしていることを口にした。




『好きな人、いんの?』

「お前、は…全部聞いてたのかよ…」



呆れたような声色。
そんなのはどうでもいい、
私が知りたいのは真実だけ。



『どうなの?』

「…いるけど…」



彼の言葉に痛みを増す胸。
キリキリと痛んで、気持ち悪い。



『‥知らなかった…私の知ってる人?』

「知ってる、っつーか…」



歯切れ悪く言葉を並べる、私の知らない彼に何故か何かが込み上げてくる。



あぁ、やばい、私、泣きそうだ。



『‥やっぱ、いいや、いい…』



ずっと、幼馴染みとしてしか見てないんだと思ってた。
だけどそれは私の勝手な思い込みで、
きっと私はずっと…ずっと…


好きだったんだ。



だから今こんなにも泣きたいんだ。



『…ならない、で…誰かのものにならないで…』



鈴虫だかコオロギだかの鳴き声が五月蝿い。
微かにざわめく風の音も五月蝿い。

だけど…




私の心臓が一番、五月蝿い…




「好きだよ」

『は?誰が、誰を?』

「オレがお前を。」



呆然と立ちすくむ私をよそにちょっと待ってろと口にした彼はベランダから居なくなり、
下では玄関が開く音と、お母さんがいらっしゃい隆君なんて言う声と、階段を登ってくる音、部屋が開く音。



そして私の目の前には、幼馴染みの姿。




「ずっと好きだった。」

『ほんとに…?』

「嘘なんかつくかよ…ったく…何年待ったか…」



彼が近寄って私の事を引き寄せる。
抱き締められて、何がなんだかわからない内に私はファーストキスを済まされた。












(つーかお前、好きって言え)
(つーか初キス、だったのに)
(あ?あたりめーだろ。オレ以外誰とすんだよ。だから好きって言えって)
(こんなあっさりってありなの?)
(オレの話聞いてんの?)



221018.



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