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存在定義(阿部)


男女交際なんて興味すらなかった。
好きとか愛してるなんてただひたすら面倒で、理解が出来なくて、愛を語り合う光景を見るとどうしても滑稽に見える。


そんな生ぬるい感情なんて持ってどうするのか。
ずっと一緒?神様の前で交わした約束さえ守れないことを血の繋がりもないされど他人と 約束なんて交わせない。交わした所でどうにもなれない。


浅く浅く、感情は持たず付き合う、それが一番だと思う私を隣に住む幼馴染みはいつだって軽蔑の目で見る。



今だってそうだ。
早く家に入りたい私を呼び止めて、黙ったまま軽蔑した目で私を見てる。
幼馴染みなんて洒落たこと言うけれど、彼だって所詮は何にもなれない赤の他人だ。



「なんなの?私早くお風呂入りたいんだけど。」



気だるそうに欠伸をすると、彼は元々目つきの悪い目を更に悪くさせてこちらに視線をくばせる。



「…いい加減やめろよ」

「はぁ…またそれ?何度も言うけど隆也には関係ないっしょ?」



苛々する気持ちを抑え、隆也を無視して家の中に入ろうと玄関の扉を開けると突然腕を引かれて体がそれに釣られる、と同時に見えた隆也の顔が驚くほど苦し気で、私は何も言えなくて。



「お前がやってることは…現実逃避だろ」



私の腕を掴む隆也の手が力を増す。ギリギリと痛む腕。


現実逃避?あぁ そうかもね。私はあんな母親みたいになりたくないから。好きも愛してるも容易く、安く言うような女になりたくないし、そんな感情もいらない。形を、気持ちを求めなければあんな嫌悪しなくてすむ。
何よりも自分自身に嫌悪なんて感じたくなかった。



「…離して」



眉を潜めながら掴まれた腕を見る。
隆也の手は幼い頃手を繋いだ子供の手じゃなくて、さっきまで私の身体を触っていた名前もうろ覚えの男となんだか似てる、そんなことを思っていたら隆也が少しだけ閉ざした口を開く。



「お前は怖がってるだけだろ。愛されなくなるのが嫌なだけだ。そのくせ一人じゃいられなくて、一瞬でも自分を求めてくれる相手に縋ることを繰り返し「やめて!」



私の声なんて聞こえないとでも言うように隆也は話すことをやめない。



「そんなのただの悪循環だ。いつか自分が持たなくなる。騙されることを騙すことを否定すんな。愚かなことをすることが全て間違ってるわけじゃねぇだろ。」



きっと隆也の言うことはあながち間違っていなくて、本当は自分がよくわかってる。


だけど、それならどうしたらよかったのだろう。
愛して突き放されるのが恐ろしくて、でも一人は寂しくて、私が辿り着いた答えは隆也の言う通り悪循環の繰り返し。




「…オレは…駄目になってくお前なんか見たくねぇんだよ…」



そう言って隆也は私の腕を掴んでいた手を自分の方に強く引く。
私の身体はいとも簡単に隆也の身体に収まって、隆也は私をギュッと強く抱き締めた。



「たか、や…」



何度も何度も身体を重ねて 人の体温を知ったはずだったのに、抱き締められた隆也の身体は今までの誰よりも温かくて、心地好くて、なんだか泣きそうになる。



「オレは、お前だけを求める、だからお前はオレだけ求めてろよ。」



隆也は好きだとも愛してるとも口にしなかった。


それでも求める という言葉は思った以上に深くて、私は一度隆也の言葉に頷く。



隆也が安心したように笑ったのと、自分の頬から涙が零れたのがわかった。



「なぁ…」



隆也が私を抱き締める力を弱めることなく 私の頭上で声を出す。その声は抱き締める力とは裏腹に弱々しい。



「信じなくてもいいけど…オレはずっとお前の傍にいると思う」



いつか、愛していると言える時が来るならば、その相手が隆也であればいいと‥そう思いながら、私は隆也の唇に自分のそれを寄せた。















(好きです、)(私の全てをわかってくれてる君には)(やっぱり今は言えなくて、)


(愛してる、)(なんだかそれを)(君の口から聞きたくなった。)




20110322.




あきゅろす。
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